第5章 青色ドロップ
少しだけかさついた丸井の手が、名前の手にぴったりとくっ付いて。自然と頬が熱くなるのを感じたが、それを無視して黙って丸井の行動を眺めたいた。
幸村よりはほんの少し小さな丸井の手。
男の人にしては少し小さくて綺麗なその手だが、やはりラケットを毎日握っているせいか皮が少し厚く男だと言うことを感じさせる。
名前の手を軽く包んでしまいそうなその手をぼーっと眺めていると、おーい、と間延びした丸井の声にはっと我に返った。どうやら思考の海に潜っていたらしい。
「大丈夫か?急にぼーっとし始めるからびっくりしただろい」
丸井の口から出たそれは、呆れたような口調だが零す表情は眉を下げ心配そうなものだ。
ーー丸井くんて、優しいな。
幸村くんみたい。なんて思った瞬間、浮かんできたのは楽しげに話している幸村と隣の席の彼女の光景で。
じわりと鈍い痛みを生み出した心臓に、少しだけ目を伏せたあと
薄い笑みを浮かべ丸井へと向けた。なんとも下手くそな笑い方だ、名前自身思った。
「ご、ごめん…丸井くんの手が…」
「あ?俺の手が、なんだよ」
「いや、綺麗だなって思って。じーっと見てたらいつの間にかぼーっとしてた。あはは」
そう言って乾いた笑いを漏らし頬をかいた名前だが、はたとある事に気がついた。
ーー私、めちゃくちゃ恥ずかしいこと言ってない?
そう思った瞬間、頬が一気に上気しとても熱くなった。赤いであろう顔を隠すように両手で頬をおさえつけながら、ちらりと丸井を見れば、しぱしぱと目を瞬かせたあとほんのり頬を上気させた。
ばちりと合った視線。絡まる二人の視線。訪れる沈黙。
上から二人に降り注ぐようにして流れる店内BGM。今流行りのラブソングのそれは、視線を絡ませる二人のムードを引き立たせようとしているようだった。
「いい雰囲気の時にごめんね。飲み物なににする?」
「うわ?!」
「わっ!?」
視線を絡ませる二人の間に、にゅっと現れにこやかに飲み物を聞いてくる店長に二人は体を後退させなんとも間抜けな声を上げた。
いったいどこから見てたのか?いやそもそも現れ方!と脳内パニックを起こしつつ、驚き騒ぐ心臓を抑える名前と丸井。
店長は相変わらずにこやかに笑ったままだった。