第5章 青色ドロップ
受け付けカウンターから離れ、靴音を鳴らしながらボーリングスペース手前で足を止めた。
丸井が先に靴に履き替えて、フルーツケーキを渡してから名前が靴を履き替えていると、丸井は今にもフルーツケーキに齧り付きそうな勢いで見つめている。
「ケーキは逃げないよ、丸井くん」
笑いながらそう言えば、自身でも無意識だったのか我に返ったような顔をすると小さな声で、うるせー…、と呟いた。少しだけ頬が赤くて、なんだか可愛いななんてぼんやりと名前は思った。
新しくしたばかりなのか、固くて少し歩きずらいボーリングシューズで床を踏み鳴らしながらボーリングスペースへと足を踏み入れた。
ぐるりと辺りを見渡してみたが人が自分達しかいない。こんなに綺麗なのになんで?なんて首を傾げてみたものの、外観のことを思い出しすぐに納得してしまった。
「うっし!んじゃ球決めねーとな」
椅子にケーキをそっと置いた丸井が声を弾ませそう言った。
球?と首を傾げる名前に、んだよんな事も知らねーのか?、と同じように首を傾げた丸井はそっと彼女の後方を指さした。
丸井の指先を追って、反射的に後方へと視線をやればそこには色とりどりの球が三段式の棚に並んでいるのが目に飛び込んできた。色だけではなく、小ぶりで軽そうな球や、ずっしりとした見るからに重そうな球など大小様々なサイズがある。
青、黒、黄色、ピンク、水色と白が混ざったもの…など、カラフルなそれらに見ているだけで楽しくなり胸が踊る。
スキップしだしそうな衝動を必死でおさえつけながら、丸井と二人肩を並べて球が陳列されているそこまで行くと、端から端まで視線を滑らせていく。
相変わらず心は踊ったままが、あまりの球の多さにどれに決めていいのか分からず自然と眉が迷ってしまう。
「球の大きさ…どれがいいんだろ。はじめてだから分かんないや」
自分の目前にあるピンク色の球を指先でなぞりながら名前はポツリとそう呟いた。
「んー、まぁ自分の手にしっくり馴染むやつがいいな。苗字、ちと手ぇ貸してみろ」
「?う、うん」
言われるまま手を丸井へと差し出せだ、その手に自分の手をそっと重ねてきた。
どきり、と。心臓が跳ね上がった。