第5章 青色ドロップ
「女の子連れとは珍しいね、丸井くん」
店長がゆっくりと言葉を紡げば、低くて甘いーーしかし柔らかな声が名前の鼓膜を擽った。どうやら丸井はこの店によく来るらしい。
先程の丸井の態度と、店長の言葉を聞くにそれがよくわかる。
「まぁな~。今日はコイツを楽しませよう会だからなぁ。特別なんだ」
「え」
コイツ、と言いながら指をさされ、名前は思わず目を丸くして体を硬直させた。
指をさされたことに対してではない、楽しませよう会という言葉を今初めて聞いたからである。
ただ単にサボりに付き合えと連れ出されたのかと思ったが、丸井は丸井なりに名前を元気づけようと考えていたらしい。なにが原因で泣いていたのかもしらないのに。
その瞬間、名前は感動した。
丸井ブン太という人間の優しさと、人間の器の大きさに、感動したのだ。
ーーもし、丸井くんが落ちこんだ時は私も同じように丸井くんを元気づけたいな。
ひっそりと心でそんな事を思いつつ丸井をじっと見つめ、ありがとう、と小さな声で礼を述べれば、友達元気づけんのは当たり前だろい!、と大きな口を開け笑って見せた。
友達。その言葉にじんわりと名前の胸が熱くなった。
幸村以外(今は想い人となってしまった為少し違うが)にも友達が出来たことが単純に嬉しくて、名前は頬が緩むのを必死で抑えた。
「おや、楽しそうな会だね。是非私も参加したいものだ」
「勿論いいに決まってんだろい!なっ名前」
「え?あ、はい!勿論です!」
丸井に、とん、と背中を叩かれ名前は慌てて首を縦に振りながら声を出した。
自分で思っていたよりも声が響いて、少し恥ずかしくなったが、にこりと優しく笑った店長を前にしてその恥ずかしさはすぐにどこかへ飛んでいってしまった。
「良かった。なら、私から彼女にプレゼントだ。これを食べて幸せな気分になってくれたら良いけど」
言いながら、ドアの向こう側へと一度足を向けるとすぐに戻ってきた。手にはミニサイズのホールケーキがあり、丸井は目を輝かせた。
本当に大好きだなぁ、甘いの。なんて笑う名前はケーキへと視線を投げた。
白く綺麗な皿の上に、フルーツとクリームたっぷりのケーキが乗っており、思わず名前も目を輝かせてしまった。