第5章 青色ドロップ
ーーよっぽど好きなんだな。甘い物も、美味しいものも。
そんな事を考えながら、二人で他愛もない話をしながらのんびりと歩いていけば着いた先はボーリング場だった。
少しだけ寂れたようなこじんまりしたそのボーリング場は、最早営業しているのかさえあやしい。
何処か薄暗さを感じるその建物に、名前は少しだけ頬をひくつかせた。しかし、鼻歌混じりにフーセンガムを膨らまし建物内に入っていく丸井に、名前は慌てて彼の後を追った。
中に入ってすぐに、名前は目をしぱしぱと瞬かせた。
寂れた気配のある外観と違い、建物内はとても綺麗だった。床はワックスが塗りたてのようにピカピカだし、壁は汚れひとつなく淡いクリーム色で一面染まっている。
それだけではない。客を迎え入れる為のカウンターも、ボーリングをコーナーも、ジュースを汲むためのドリンクバーも、出来たばかりのようにとても綺麗で思わず名前の口からは感嘆の声が漏れた。
そんな彼女の様子を横目で見て、得意気に笑った丸井は、綺麗だろい?最近中だけ綺麗にしたんだとさ、と言ってきた。なるほど、だからこんなにも綺麗なのか、と納得とすると同時に、名前はワクワクと心を踊らせ始めた。
ボーリングははじめてなのだ。スポーツはどれもそつなくこなすが、どれも部活動や体育絡みのものしかした事がなく、やってみたいと前から思っていた。
「丸井くんっやろ!早く!」
「待て待て、まだ受け付けしてねぇだろい。ほら、カウンターんとこ行くぞ」
「うんっ」
子供のようにはしゃぐ名前に、困ったように眉を下げ苦笑する丸井。
近くにあった受け付けカウンターへと行けば、ほんの少し立ってから、カウンター横のドアがゆっくりと開いた。二人の視線が流れるようにそちらへと向かえば、ドアの向こう側から初老の男性が出てきてにこやかな笑みを二人へと向けてきた。恐らくこの人が店長だろう。
思わず軽く頭を下げる名前とは違い、丸井は、よっ!、なんて友達に挨拶でもするかのように片手をあげ店長に笑いかけた。丸井ブン太という人間は、人と人との間にあまり壁を作らない人間らしい。