第5章 青色ドロップ
どちらの笑みもとても素敵だ。
自分も、二人のような素敵な笑みを浮かべられているだろうか?不二に、笑った顔が可愛いと言われたのふとを思い出した。
しかし、自分がどんな顔をして笑っているのかなんて鏡を見ないと分からないし、鏡を見たとしても首を捻ってしまうだろう。
ーーいつか、誰かに、笑った顔が一番好きって言われたいな。
ぼんやりと幸村を脳裏に浮かべそんな事を思いながら、頬を緩ませそっと口を開いた。
「仮にさ、私が家帰って私服に着替えたとして…丸井くんはどうするの?丸井くんも家近いの?」
「いや、俺は家寄らなくて平気。ほれ、見てみろい」
言いながら背負っていた鞄の持ち手を片側だけ外すと、鞄のチャックを開き中を見せてきた。
なにか食べ物を強請るように大きく開かれた鞄の口。それを覗き込めば、中には綺麗に折りたたまれた洋服が見えた。
「着替え持ってきてるの?」
「おー。俺な、ホテルのバイキング行くのが趣味なんだよな。けど、たまに制服だと入れてくれねぇ所あるから常に私服持ち歩いてんだ」
「へぇ…そうなんだ。用意周到だね」
「まぁな。天才的だろい?」
そう言ってまた満面の笑みを浮かべる丸井に、名前はつられて笑ってしまった。
* * *
コソコソと二人で学校を抜け出して、名前の家に寄り制服から私服へと着替えて街へとくりだした。
私服姿の丸井は、当たり前だが制服の時と雰囲気が違って見えた。
白いシャツの上にグレーのカーディガンを羽織り腕まくりをして、下は少しだけダメージのあるジーンズを履いている。なんて事無い、至って普通の格好の筈なのにさらっと着こなしている丸井はとてもかっこよく見えた。
対する名前も、黒いスキニーパンツにクリーム色の薄手のニットで、少しだけ丸井と似たような格好である。
「で、どこ行くの?」
ずるりと肩から少しだけずれた鞄の紐を掛け直し、手で固定しながら名前はそう問うた。
「んー、そうだなぁ。さっき甘いもん食ったし、ちょっと体動かして腹減らすか。んで、その後バイキングだな」
「ま、また食べるの?」
「あったり前だろい!あんなん朝飯前だっつーの」
「あの量が朝飯前…」
呟きながら、木製のベンチに並んだあのスイーツたちを思い出し頬をひくつかせた。