第5章 青色ドロップ
木製のベンチに後ろ手で手をつき、体を後退させた名前に丸井はしぱしぱと目を瞬かせたあと少しだけ頬を上気させた。
些か大きく見開いていた目をジト目にかえ、名前を見つめる。
「…んだよ、そういう反応すんなよ。こっちのが恥ずかしくなるだろ」
「だって、思ったよりも丸井くんの顔が近かったから…」
「だからって顔赤くして避けることはねーだろ」
「丸井くんだって顔赤いじゃない」
「…俺はいーんだよ、俺は」
なんだそれ、ずるい。そんな言葉を吐いてみたものの、うるせー、なんて舌を出されてしまい、名前の顔がしかめっ面になる。
折角の幸せな気分が少しだけすり減ってしまったが、元はと言えばこの幸せは丸井がくれたプリンのおかげだと言うことに気がつき緩く頭を左右に振った。
残り半分以上残っているプリンをスプーンで掬い、ちまちまと大切に食べ進め始めた名前を一瞥した丸井はエクレアを三口で食べ終え、大福へと手を伸ばした。今度は和風な味で味覚を少しだけ変えるつもりらしい。
透明な包みで身を隠していたそれをすぐに剥ぎ取り、指先を白い粉で少しだけ汚した丸井は思い出したように口を開いた。
「なぁ、苗字」
「ん?なに?」
残り半分になってしまったプリンに寂しさを感じつつ、手を止め丸井へと視線を向けた。
「お前っていつもあの時間にきてんのか?早くねぇ?」
「いや、いつもはもう少し遅いよ。今日はたまたま早く目が覚めたから気まぐれで早く来てみたの」
「ふーん。そうなのか。俺だったら、部活ないときは家にギリギリまでいるけどなー」
「多分いつもの私ならそうしてたかも。けどなんか今日は落ち着かなくてね~」
言いながらプリンを一口運ぶ。やっぱり幸せの味が口いっぱいに広がって、自然と頬が緩んでしまう。
丸井は名前の言葉に、ふーん、なんて気のない返事を寄越してから大福に齧り付いた。また大きな口で食べるのか思ったが、予想とは反して小さく齧り付いていた。咀嚼しつつ唇についた粉を舌で拭う丸井に、大福好きなの?、と問うてみたら目を丸くしている。
なんでそんな質問をするんだ?という顔である。