第5章 青色ドロップ
調理部に入ったから、マフィンを作って。マフィンを手にしていたから、丸井に声を掛けられて。名前と顔を知っている今、何故か丸井が屋上でスイーツを食そうとしているのを眺めている。
不思議な巡り合わせだな、と名前はひっそりと思った。
立海に来てから、幸村以外の男友達が出来たのは丸井が二人目だ。…とは言え、幸村は友達から想い人へと変わってしまったし、丸井自身は名前をどう思っているのかは分からないのだが。
「よし、コイツに決めた!」
一際弾んだ声が耳に飛び込んできた。
まず最初に食べるものは、どうやらシュークリームに決まったらしい。丸井は口からガムを取り出し、先程スイーツが入っていた袋にそれを捨て、ふと名前へと視線を寄越してきた。
「なんだお前、早く決めろよ」
「えっ…わ、私も食べていいの?」
そう言いつつも、名前はソワソワと体を揺らし木製のベンチに並んだスイーツをぐるりと見渡した。
まるでアクセサリーショップで品物を物色しているようなワクワク感に、自然と頬が緩むのを感じる。
「当たり前だろい。その為にお前ここに連れてきたんだから」
「…一緒にこれ食べる為にここに連れてきたの?」
「あぁ。うまいもん食ったら、ちっとは気が晴れるだろ。んで、まぁ…話したくなったら聞いてやるから話してみろい。それまではとりあえず、こいつら食おうぜ」
そう言って手を伸ばした丸井。先程決めたシュークリームを手にすると勢いよく袋をあけ中身を取り出した。大きな口をあけ、柔らかなそれを半分口に含めば勢いよくクリームが飛び出し丸井の口の端を汚した。
「んまい!ほら、お前も早く食ってみろい」
口端に付着したクリームを舌で拭ったあと、満面の笑みを浮かべ名前へと言葉を投げた丸井は至極幸せそうだ。
そんな相手の表情を見て、つられてこっちも幸せな気分になってくる。
ーー凄く美味しそうに、凄く幸せそうに食べる人だな…丸井くんて。
そんな事を思いながら、ありがとう、と礼を述べてからプリンを手に取った。上蓋に小さなスプーンが付いていて、それをそっと取ってから蓋を空ければツヤツヤと美味しそうなプリンが顔を出した。