第5章 青色ドロップ
「ごめん笑って。…けど、丸井くんて何でも出来そうなイメージだったから驚いたな」
そう言った名前の言葉に丸井は頬をかき少しだけ頬を上気させた。
「まぁ、テニスは天才的なんだけどな。数学と理科はダメだ。アイツらは俺の敵だ」
「ふはっ…敵って…!数学も理科もコツさえ掴めば簡単だよ。けど苦手意識あると教科書見たくもないよね」
「そーなんだよなぁ。アイツらの教科書置いた瞬間眠気がやってくる」
「いや、それただ眠いだけじゃん!」
肩を竦め顔を顰める丸井に、名前は笑いながらツッコミを入れーーほんの少しの間のあと二人は顔を見合わせ大きな声で笑いあった。
木製のベンチへと腰掛けた。いつも幸村や朋子と三人で座っている、座り慣れたベンチだ。と、そこでふと昨日の事を思い出した。
幸村と二人、ここに腰掛け弁当を食べていてーー軽いキスをされた。そう言えば、幸村にキスを何度されたのだろう?
不意打ちのキスばかりで名前には分からなかったし、ひとつひとつ記憶を辿ってキスの回数を数えていくのは恥ずかしくて到底出来なかった。
「んじゃま、始めますか」
楽しげに声を弾ませそう言った丸井に、名前は首を傾げて見せた。
「始めるって、なにを?」
「決まってんじゃねーか、コレだよ、コレ」
言いながら丸井が通学鞄から取り出したのはコンビニスイーツだった。
シュークリーム、エクレア、ガトーショコラ、プリン、マフィン、ドーナツ、羊羹、豆大福。
どれもふわふわきらきらとしていて、とても美味しそうだ。だがしかし、木製のベンチに綺麗に並べられたそのスイーツの多さに名前は少しだけ頬をひくつかせてしまった。
しかし、そんな名前になど気づきもしない丸井は、目を輝かせながら鼻歌混じりにどれから食べようかと視線をスイーツへとやっている。
ーー甘い物、好きなんだ。
好きなの?なんて聞くのが野暮なほど、スイーツを目の前にした丸井の瞳はきらきらと輝き、口角は上がっていた。
そう言えば昨日、丸井はチョコチップマフィンを欲しがっていた。きっと、あの時名前の手にそれがなかったら丸井は声を掛けていなかっただろう。