第5章 青色ドロップ
丸井から送られてくる視線が気まずくて、名前はさ迷わせていた視線を足元へと落とした。
視界の先には自分の足と、丸井の足がうつっている。
男と女で少しだけ形が違うローファーは、履きなれて来た頃あいの名前に比べ丸井のものは大分足に馴染んでいる気がした。傷やら汚れやらが、少しだけあるそのローファー。味があって逆にいいな、なんて評論家のように心の中で頷いた。
幸村よりも大分背の低い丸井だが、それでもしっかりと男の人で、足は名前よりも大分大きい。
ーーけど、やっぱり、幸村くんの方が足ちょっとだけ大きい気がするな。
丸井の足をぼんやりと眺めながら現実逃避をしていると、不意に手首を掴まれた。
幸村の手の感触とはまた少し違う、男の手の感触が手首から伝わり、何故か恥ずかしくなり頬が熱くなるのを感じる。
いったいなぜ、急に手首を掴んだのか?
言葉が喉の奥に引っかかって出せない代わりに、名前は視線で精一杯そう尋ねると、綺麗なウィンクを送られて…思わず間抜けな顔を晒してしまった。
「お前暇だろい?ちょっとだけ俺に付き合えよ」
「え、えぇ…?いや、別に暇ではないけど」
「まーまー。固いこと言うなって。ほんじゃま、行くか」
「ちょ、ちょっと丸井くん!」
戸惑い狼狽える名前のことなどどこ吹く風と言った様子で丸井は大股で歩き始めてしまった。
手首は相変わらず掴まれたままで、そのせいか引っ張られるような形になってしまい丸井の歩幅似合わせるように歩くと軽く小走りのような形になってしまう。
転けまいと必死で足を動かしつつも、丸井の背中に言葉を投げかけるが鼻歌混じりで歩く彼には届かない。
数分粘ってみたが、お前しつこいぞ、なんて呆れた顔をされてしまい腑に落ちなさを感じつつも名前は仕方なく押し黙った。
ーー丸井くんはどこに行くつもりなんだろう?
そんな事を思いながら名前は今一度丸井の背中をぼんやりも眺めた。名前よりは広いが、幸村よりは小さく思える背中。身長が幸村よりも小さいせいだろう。
それでも、掴まれた手首から伝わる丸井の手は幸村と同じでゴツゴツしていて、皮が厚く男の人のそれだった。