第4章 黄色ドロップ
幸村精市という男と居る時。自分はどんな感じだったろうか?
最初はただ綺麗な人だと見惚れていたが…幸村と接するようになってから、彼の内面を覗けるようになってから、少しずつ見方が変わった気がする。
幼馴染である不二周助は置いておいて、名前が男友達とあそこまで仲良くなれたのははじめてだった。
だからこそ嬉しくて、楽しくて。幸村から言われる小言と、小突かれる額の痛みも心地良かった。
しかし、幸村のふとした時の表情にドキリと心臓をはね上げるさせていたのはキスをされる以前からである。それが、キスをされ、好きだと告げられた日から余計に加速している気がする。
見つめられると目を逸らしたくなるし、声を聞くとドキドキするし、二人でいると心臓が早鐘を打ち始める。これが…気があるという証拠なのだろうか?
「…ドキドキする」
か細い声でそう呟けば、どんな時にだい?、と矢継ぎ早に質問されてしまった。
「どんな時に?……声、聞いた時とか?」
『声?』
「うん。幸村くんの声ってね。聞いててとっても気持ちいいの。耳触りが良いって言うのかな?周助の声も、そうだけど。二人の声って少し似てるよね」
『えっ…僕と、幸村の声がかい?』
僅かに不二の声が上擦った気がして、どうしたの?、と問うてみたが、なんでもない、と誤魔化されてしまった。
名前はなにか引っかかりを感じつつも、言葉を続けた。
「そう。似てる。二人とも聞いてて気持ちがいい声だよね。落ち着いた優しい声でさ。けどね…幸村くんの声は、心地よさと一緒に、ドキドキが来るんだよね」
『…そうなんだ』
「うん。ドキドキして、苦しいの。けど、まだ聞いてたい。もっと聞きたいって思う時がある」
瞳を閉じれば幸村の笑った顔が瞼の裏に映し出された。それと共に優しく柔らかな声も聞こえた気がして、心が少しだけ震えた。
瞳を閉じて心のまま幸村を描いていると、不二は暫しの沈黙のあとクスクスと笑い声をあげ始めた。
『……ふふ、名前は本当に頭が弱いなぁ』
「あ、また頭弱いっていった!言わないでってば!」
『だって、言いたくもなるよ。ねぇ名前、自分で気づかないのかい?』
言葉に含みをもたせ、意味深にそう問うてきた相手に、名前は眉を寄せ、なにが?、とぶっきらぼうにといかえした。