第4章 黄色ドロップ
「あ、あ、ありえないよ!私が幸村くんに気があるとかっ…だってあの幸村くんだよ?私なんかが幸村くんに気があるとか身の程知らずすぎる!」
ぶるぶると身を震わせながら吠えるように言う名前に、不二は呆れたように溜め息を漏らした。やれやれ、と言った感じの溜め息だ。
『名前、人を好きになるのに身の程知らずとかどうとか、関係ないよ。名前も、幸村も…一人の人間だろう?それなのに何に対してそんなに引け目を感じているんだい?』
「だって…幸村はかっこよくて、綺麗で…テニスが上手くてお花が好きで…あ、あと絵を描くのがとっても上手くて…。そんなに才能に溢れた人に私みたいな凡人が思いを寄せても馬鹿を見るだけだよ」
『名前は凡人なんかじゃないよ。頭は僕よりいいし、手先は器用だし。それに、笑った顔はとても可愛いじゃかいか。むくれた顔も僕は好きだけどね…ふふ』
すらすらと述べられた自身を褒める言葉に名前は照れくささから頬を上気させた。幼馴染にこう改まって褒められると気恥しいものだ。
思わず頭をかきながら、ごろんとベットを転がった。
「…周助に褒められるとなんか調子狂うなぁ」
『酷いなぁ、折角褒めたのに。もっと喜んでよ』
「ワーイ」
『あはは、棒読みじゃないか』
声を上げて笑う不二につられ、名前も声を上げて笑った。青学に居た時も、よくこうやって他愛もない話をしてはお互い笑いあっていたな。
1ヶ月も経っていない、ほんの少し前の記憶なのに随分前なような気がした。それほどまでに、立海へ転入してからの生活が濃厚だからだろう。
二人で笑いあってから、暫しの沈黙が訪れた。
どちらも言葉を探しているような気配をお互いに感じて、余計に次の言葉が産み出させず沈黙が更に続く。
なにか話さなければ。そう焦って、とりあえず天気の話でもしようかと口を開いた名前だったが、彼女が言葉を紡ぐよりも先に不二が言葉を紡ぎ始めた。
『名前、ひとつだけ聞いていいかい?』
「うん。なに?」
『幸村と居る時は、どんな感じだい?』
「どんな感じ?えっと…」
不二の質問に、些か目を見開きつつも名前はぐるりと思考を巡らせた。