第4章 黄色ドロップ
「しゅ、周助…?寝た?」
『いや、寝てないよ』
あまりにも返事が来ないものだから、寝てしまったのかと思ったが…どうやら違ったようだ。
澄んだ耳触りのいい声がすぐに聞こえてきて、ほっと安堵するも、ならば何故あんなにも沈黙をしていたのだろうか?と名前はひっそりと首を傾げた。
いつも質問や悩み事には確実に、そしてすぐに答えてくれる不二周助だからこそ、不思議でならなかった。
『名前は…本当に頭が弱いね』
「えぇ?!なんで突然馬鹿にするの!」
『いや、馬鹿にしたわけじゃないけど…』
「してるでしょ!頭弱いって言われるの気にしてるんだから言わないでよっ!」
『あはは、気にしてたんだ。ごめんごめん』
本当にごめんと思っていたのだろうか?なんて心の中で思いつつもそれ以上責め立てることはせず口を閉ざせば、そうだなぁ…、と上手い言葉を探している不二の声が聞こえ心地いい。やっぱり、幼馴染の声は落ち着く。
ーー幸村くんの声も、耳触りがよくて周助の声と似てるけど…ちょっと違う。幸村くんの声は…ドキドキする。
頭の中で自分の名前を優しく呼びかける幸村をそっと思い浮かべて思わず赤面して、パタパタと片手で空をかき頭の中の彼を消し去ると同時に不二の声が耳に滑り込んできた。
『名前は、幸村に抱きしめられたりキスされたりした時どう思った?』
「どうって…なにも…。突然すぎて、驚いただけだよ」
『嫌とかは思わなかったのかい?』
「嫌とかは、特に…。あ、けど」
『けど?』
「唇が……気持ちいいな、って思った」
自分の唇を指の腹で撫でながらポツリとそう呟けば、電話の向こうで小さく息を呑んだのが伝わってきた。
「周助?」
思わず名前を呼べば、ごめん…なんでもないよ、と言葉を濁され曖昧な笑い声が聞こえてきた。周助らしくないな、と思いつつも本人が何でもないと言っているのでそれ以上は何も言えなかった。
そんな名前に気づいてか、不二は少しだけ声のトーンを上げ言葉を紡ぎ始めた。
『そう思うって事は、少なからず名前は幸村に気があるんだよ』
サラリと述べた不二の言葉に、名前は暫しの沈黙をへてから、ええぇ?!、なんて間抜けな声を上げた。