第2章 桃色ドロップ
それから約1ヶ月後ーー五月の初旬。
名前は青春学園から、マンモス校と呼ばれる立海大付属中学校へと転入してきたのだ。
雰囲気が青春学園とはまるで違う。どこかピリついた空気を漂わせている立海大付属中学校。果たして自分は上手くやっていけるのだろうか?と名前は思考を巡らせたあと、すぐに止めた。
考えたところで、自分の行動次第で結果は変わるのだから意味が無い。それとーー考えるという事は面倒くさいのだ。
名前はあげていた視線を戻し、笑みを携えたまま大股で校舎へと向かおうとしたーーが、ふと足が止まる。
ふわりとあたたかい春風を体で浴びる名前の視線に止まったものは、傍らにあった花壇の花々であった。
太陽に照らされた花々は、まるで宝石で作り上げられたようにキラキラと輝きとても綺麗だ。
四角いレンガで作り上げられた花々の家の中ーーその中には見たことはあるが名前は知らない花から、見たこともないような花もある。
見惚れてしまうほど綺麗なそれらに、名前は感嘆の息を吐き端から端まで丁寧に眺めながらゆっくりと歩を進めていった。誰かが水を上げたのか、キラキラと見えたのは水の粒が太陽に反射していたかららしい。
ーー綺麗だなぁ…どうやったらこんなふうに綺麗に花を咲かせられるんだ?
ローファーの靴底でコツ…コツと地面を鳴らし歩きながら名前はそんな事を思った。
興味がある事にはのめり込み、徹底的に調べあげ知らない事などないと言っていいほど知識を蓄える名前だがーー反対に、興味を示さないものには全くと言っていいほど無知なのだ。
そこでふと、名前は幼馴染の不二周助を思い出した。
不二はサボテンをとても大事に育てていた。ふざけて名前が触ろうものなら目を見開いて窘める程にはーーサボテンを溺愛している。
あの時の周助は怖かったな…。なんてぶるりと身を震わせていると、とん、と何かにぶつかってしまった。しまった、と名前は内心で頭を抱えた。
歩を進めながら花々を見るため真横へと顔をやっていた事を今更ながら激しく後悔した。