第4章 黄色ドロップ
『名前?考え事かい?』
「?!な、ななっなんでもない!」
『…嘘だね。君、幸村となにかあっただろう』
幼馴染を舐めてもらっちゃ困るな。そういった不二の声音は、強気な言葉とは裏腹に少し困ったようなものだった。
しかし、今現在幸村精市という男が頭の中にどかりと居座っているせいで、名前はその時不二の声音の変化に気づかなかった。いつもなら幼馴染のほんの些細な変化も気づくはずなのに。
スマートフォンを耳に押し当て、あー…うー…、なんて言葉にならない言葉を口から吐き出していると、話してごらんよ、と優しく促された。
ーーやっぱり、周助は頼りになるな。
心の中で幼馴染に感謝をしながら、実は…、とここ数日の幸村精市との出来事を話した。
クラスメイトからの悪口で、と言うことは伏せ、幸村くんに少し嫌なことがあってその時慰めるように言葉を投げたら、キスをされ好きだと言われたと。
それまではごく普通だったのに、突然グイグイとアプローチしてくるようになったし名前で呼ばれるようになった。突然の事すぎて頭がついていかない。どうしたらいい?
名前はここ数日で起きた濃厚すぎる出来事を、顔を赤くしたり青くしたりさせながら不二へと告げた。
ーーこれが電話でなくて本当に良かった…面と向かってだったら、こんな恥ずかしいこと、絶対に言えない。
そんな事を心の中でひっそりと思いながら、不二の言葉を待った。
名前の方が頭脳はいいが、それは勉学のみだけの話だ。世渡りがあまり得意ではなく、少しだけ人見知り気質のある名前は小さい頃からよく不二に助け舟を出してもらっていた。
頭が良すぎる上に、小さい頃はよく無自覚のうちに色んな人に失礼な言葉を零してしまっていた彼女。
これが出来ないの?
簡単な問題だよね。
テストつまらなかった。簡単すぎる。
なんでそんなに点数低いの?
自分で思い出してみても、なんとも可愛くない小憎たらしい子供だと名前自身思う。
しかし、その当時は本当にそれらの言葉に悪気はなかった。皆、自分と同様の頭脳を持ち合わせていると思っていたのだから。だからこそ、彼女の口からはポロポロと人を馬鹿にするような言葉がでてしまっていた。