第4章 黄色ドロップ
口に手を当てたまま、押し黙った名前から視線を外した幸村は自身の手元へと移した。
下部と上部には、淡いピンク色の花が散りばめられている可愛らしいラッピング袋。中身が見えるように真ん中部分は透明になっていて、そこからチョコチップマフィンが誇らしげに顔を覗かせている。
それを指の腹で袋越しに撫でたあと、幸村はゆっくりと口を開いた。
「お前がこれを作ったのかい?」
いつもと変わらない声音のはずなのに、やけに単調だと、名前は思った。
「う、うん。そうだよ。私今日から調理部に入ったから」
「えっマジかよ!なら美味いもん作ったら今度から俺に差し入れーー」
「丸井」
言葉の途中で、幸村の冷たく鋭い声がそれを遮った。
途端にピリついた空気が流れ出し、名前は焦り視線を泳がせた。しかし、それは名前だけではなく丸井も同様だった。
「あっ…いや、なんでもねぇ。…じゃ、じゃあ俺練習戻るわ!」
顔を青ざめさせた丸井は下手くそな笑みを浮かべると同時に、バタバタと足音を立てその場から離れていった。
なんとも逃げ足が早い。
くれと言ったチョコチップマフィンの事などもうどうでもいいのか、去っていく背中は小さくなり一番遠くのコートで彼の足は止まった。
褐色肌の坊主の男と話している丸井をぼんやり眺めていると、不意に柳生が口を開いた。
「では、私も練習に戻るとします。苗字さん、調理部での部活動頑張ってくださいね」
「う、うん…ありがとう、柳生くん。柳生くんも部活頑張ってね」
少しだけ引きつってしまっている笑みを浮かべる名前に、困ったような表情をこぼした柳生だったが、幸村から僅かに漏れるオーラに気圧され短く息を吐くとその場を離れていった。
二人きりになった途端、ピリついた空気は無くなったものの、押し黙ったまま手の内にあるチョコチップマフィンを眺める幸村はやはりいつも違うようだ。
僅かだが口角が少し下がっている気がする。
自分はなにか不味いことをしてしまったのだろうか…?と名前はぐるぐると回る思考と共に目も回りそうな気分に陥った。頭をかかえたくなる気持ちを抑え、そっと視線を足元に落とすと同時に幸村が口を開いた。