第4章 黄色ドロップ
丸井、柳生、名前。
三人の視線が流れるように後方へと向かえば、丸井と名前の目は大きく見開きぎくりと身を震わせ…柳生は落ち着いた態度で声の主の名前ーー幸村の名を呼んだ。
相変わらずジャージを肩に羽織ったまま、腕を組み、凛と背筋を伸ばし立ち三人へと薄い笑みを向ける幸村。
大きなテニスコートという舞台をバックに、夕日を全身に浴びている幸村は、普段見慣れている制服姿の彼とは違い何処か獣のような荒々しさを感じ自然と喉がこくりと鳴った。
幸村の視線が流れるように名前だけに注がれた。
何故、ここに居るんだい。
何故、丸井達と話をしているんだい。
向けられた綺麗な瞳から、幸村の心の言葉がそう流れ込んできた気がして名前は思わず視線を逸らしてしまった。別に悪い事をしている訳では無い。
なのに何故自分は視線を逸らしてしまったのか。そう言えば、家庭科室に生徒会長が入ってきた時も俯いてしまった気がする。
どうやら自分は強い意志のようなものを持って真っ直ぐ見つめられるのが、得意ではないらしい。名前は一人自分のことを今更ながら理解しながら、ローファーのつま先で足元にあった小石を小さく蹴飛ばした。
「丸井くんが彼女にモノを強請っていたので声を掛けたんですよ」
さらりと述べた柳生の言葉に、丸井はギョッとした表情をこぼし慌てて口を開いた。
「い、いや…幸村くん、これはその…こいつが美味そうなモン持ってここに立ってたから差し入れかと思って」
「…美味しそうなモノ?」
丸井の言葉に小さく眉を寄せた幸村は、そこではじめて丸井の手の内に収まっていたチョコチップマフィンの存在に気がついた。二歩足を進ませ、丸井の傍らによるや否や彼の手からそれを奪い取ってしまった。
可愛らしいラッピング袋の先端を摘み、自分の手の内に収めた幸村を見て、あああ!、なんてこの世の終わりみたいな声を出した丸井に不覚にも笑ってしまった。
少しだけ声を上げ笑う名前へと、口を閉ざしている幸村からの視線が飛んでいき思わずぎくりと身を震わせ口元へと手をやり笑い声を消し去った。何故だろうか。幸村が怒っているような気がして酷く怖かったのだ。