第4章 黄色ドロップ
そんな訳で、晴れて調理部になった名前の調理部での第一作目は"チョコチップマフィン"となった。美味しそうに焼きあがったそれがふたつ、可愛らしいラッピング袋に入っている。
「それじゃあ苗字さん、うちの部の活動曜日は月曜日と木曜日だから」
「うん。分かった。じゃあ次は来週の月曜日か~。楽しみにしてるね」
「ふふっ私も楽しみにしてる!苗字さん…じゃなくて、名前ちゃんて呼んでもいい?」
少しだけ照れくさそうに笑った彼女に、名前もつられて照れくさくなり頬をほんのり上気させながら口を開いた。
「うん。じゃあ私はチョコちゃんで呼んでいい?」
チョコちゃん。同じクラスで、名前を調理部へと誘ったは彼はとてもチョコレートが大好物なようで部員皆がそう呼ぶものだから、名前もそう呼びたくなったのだ。
チョコちゃんは名前の申し出に嬉しそうに何度も繰り返し頷き、笑って見せた。
部員達と別れ家庭科室を出て、のんびりと校舎を抜け出した。手には調理部第一作目のチョコチップマフィンが乗っており、名前はニコニコと頬を緩めながらそれを眺めていた。
すると、ふとその時ーー子気味いい音が耳に飛び込んできた。
ぱこーん、ぱーん、ばしっ。
球をうつ気持ちのいい音がひっきりなしに聞こえてきて、名前はほぼ無意識のうちに足を音の方へと向けていた。未だ履きなれぬ立海指定のローファーは、少しだけ歩きにくくて眉を寄せたが、それよりも早く音の出どころに行きたくて気持ちは急いていた。
音の方へと足を進めていけば、子気味いい音は徐々に大きくなり先程よりもはっきりと名前の耳に飛び込んでくる。音の招待はどうやらテニス部からだったようだ。
強豪校と呼ばれる立海テニス部のテニスコートはとても広く、思わず青春学園のテニスコートが恋しくなってしまった。
それと同時に幼馴染である不二周助を思い出した。彼は元気にしているだろうか?まだサボテンを可愛がっているだろうか?
そんな事を考えながら、足を止めテニスコートへと視線を向ければよく見知った姿がすぐに視界に飛び込んできて、どきりと心臓が跳ね上がった。