第4章 黄色ドロップ
「生徒会長、それでは彼女が萎縮してしまいますよ」
優しい声が助け舟を出し、名前を眺める彼女をたしなめた。しかし、それでも目前の彼女は眺めることをやめず数秒じっと名前を見つめたあと、突然弾んだ声を出した。
「いいわ!素敵!貴方は仮入部とかではなさそうですの!いいですの、調理部の存続を認めますの!これからも美味しいご飯やお菓子を作ってくださいませですの!」
両手を合わせ、ぱん、と乾いた音を立てた生徒会長は先程とは打って変わって花が咲いたような可愛らしい笑みを零している。
あ、ありがとうございます…。思わずそうお礼を述べたが、ちくりと心が痛む。
実際名前は彼女が言う仮入部なのだ。調理部存続の為に一週間だけ入っただけの辻褄合わせの人間。それなのにこんなにもはしゃいで自分のことのように喜んで。
最初の冷たそうな印象とはだいぶ違い、頬を上気させはしゃぎ喜ぶ彼女はとても可愛らしい人だった。そんな可愛らしい人を裏切っているような罪悪感に、名前はきゅっと唇を結んだ後、大きく口を開いた。
「任せてください生徒会長!美味しい料理を必ずや作ってみせましょう!お暇な時はいらしてください!料理を振る舞いましょう」
「ちょ、ちょっと苗字さん…?!」
両の拳を握りしめ生徒会長に言葉を投げ掛ける名前に、ギョッとした表情をこぼし、慌てて止めにはいる同じクラスの女子。それでも名前の暴走は止まらず、熱弁を振るう彼女に生徒会長は目を些か見開いたあと至極嬉しそうに、その時は是非お邪魔させてもらいますの、と声を弾ませ頬を更に上気させた。
* * *
生徒会長と風紀委員長が帰ったあの後。部員全員に叱られたが、仮入部ではなく本入部させて欲しいと申し出た途端、打って変わって名前を褒めちぎり始めた。
女神様!
貴方ならそう言ってくれると思ってた!
さすが苗字さん!我が部の救世主様!
頭はいいし優しいし、素敵ね!
先程とは打って変わり、名前の周りに集まった彼女たちは満面の笑みでそう煽ててくるものだから、現金だなぁ、なんて笑ってしまった。