第4章 黄色ドロップ
家庭科室にやってきて一時間ほど経った頃、控えめな音を立て不意にドアが開いた。
その場にいた全員の視線が、調理の手を止めそちらへと視線が向かう。視線の先にいたのは、生徒会と書かれた腕章をつけた女子生徒と風紀委員と書かれた腕章をした男子生徒だった。
どちらも頭がとても良さそうだ。
名前は何故かこくりと喉を鳴らし、卵を解いていた手元へと視線を落とした。なにか悪い事をした訳でもないのに、何故俯いているのか…自分でも分からなかった。
「えっと…生徒会長は兎も角、なんで風紀委員長まで…」
ドア付近で立ったままぐるりと中を見渡していた二人へと、控えめな声で声を掛けたのは調理部の部長だった。お下げ髪で眼鏡の、大人しそうな子だが、とてもかわいらしい雰囲気の守ってあげたくなるタイプの女子だ。
部長に問われた本人ーー風紀委員長らしい男は眼鏡を指で押し上げたあと、申し訳なさそうに眉をさげ、口を開いた。
「これは失礼しました。驚かせてしまいましたね。私がここに来たのは、調理部の方に制服の乱れがあると通告を受けたので確認の為です」
「そ、そうだったんですか…?ですが、調理部に制服の乱れた人なんていませんが」
「ふむ。…見たところ、そうですね。どうやら間違いの通告だったようです。失礼いたしました」
「い、いえ…誤解が晴れて良かったです」
部長は心の底からホッとしたような表情をこぼし、胸に手をあてた。しかし、彼女の不安はまだ終わっていなかったようで、今まで黙っていた生徒会長がゆっくりと口を開いた。
「アナタ、新しい部員の方はどちらに?それともまだ見つかりませんの?」
少し冷たい印象が残る声が、真っ直ぐに部長へと投げ掛けられた。
威圧しているように感じて、思わず顔をあげてそちらへと視線をやれば、ばちりと生徒会長と目が合ってしまった。
ぎくりと体を震わせる名前などお構い無しに、生徒会長はこちらに歩み寄ってきた。
モデルのような優雅なーーけど何処か圧倒されてしまう歩き方で傍らまで寄ってきた彼女は名前を上から下まで舐め回すように眺め始めた。とても気まずい。
まるでお店のウィンドウに飾られたマネキンのような気分だ。