第4章 黄色ドロップ
もしかしたら、幸村は名前が幸村の事を綺麗だと常日頃から思っている事に気がついているのかもしれない。
自分のペースでゆっくりと弁当を咀嚼する幸村から視線を外し、名前は口の中で溜め息を噛み殺した。
幸村精市という男が分からない。何故、こうも急にグイグイと行動を起こすのか。昨日の、あの一件で幸村の何かが変わったのだろうか?
名前はぐるぐると思考を巡らせたあと、もう一度溜め息を口の中で噛み殺しいつもよりも早いペースで弁当を食べ始めた。勿論、心の中では豪快に笑い考えを放棄している自分がいた。
「名前」
「ん、なに?」
口の中いっぱいに好物を詰め込み、行儀が悪いと思いつつもむぐむぐと口を動かし言葉を吐いた。視線は弁当に向けたまま、意識はなるべく食事へと注ぐ。
「俺は手を抜くつもりはないから、気を抜かないでね」
「えっ…なにが、」
言葉の意味がイマイチぴんと来ず、咀嚼したものをごくりと喉へと通したあと無意識のうちに幸村へと視線を向けてしまった。
しまったと思っても、もう遅い。
気づいた時にはまた、軽いキスをされていた。すぐに離れていった唇に、名前は呆然として固まり身動きが取れずにいたが、楽しげに笑う幸村を見てなんだか悔しくなりやけくそのように残りの弁当を平らげた。
* * *
放課後、名前は家庭科室に居た。
帰りのSHRを終えた名前の元に、調理部部員に人数に一週間だけで良いから仮入部してほしいとたのまれたからである。
なんでも廃部寸前の人数で、生徒会から忠告を受けているらしく一週間の間に新しい部員を入部させなければ廃部、だとか。
何故名前に声を掛けたのか?という疑問は、至極簡単に解き明かす事が出来た。
「苗字さん頭いいし手先も器用だからお料理も上手なんじゃないかと思って!」
両手を合わせ、花が咲いたように話す彼女は名前と同じクラスで、仮入部を頼んできた張本人だ。
「本当は愛卯さんもって声掛けたんだけど、卵も割ったことないって言うから…」
「あー…朋子は料理一切しないって言ってたしなぁ」
天使のような親友の顔を思い浮かべながらも、目前にいる彼女と顔を合わせ笑みをこぼした。