第4章 黄色ドロップ
恋人繋ぎのようなその手の握り方に、名前の顔はいっそう熱くなり、いっそう、真っ赤になった。
きゃー♡、なんてはしゃぐ朋子の声にクラスメイトたちの視線が二人へと向き一瞬で教室内はざわざわと騒がしいものになった。
手繋いでる!
嘘、二人付き合ってるの?
いつの間に?
友達じゃなかったの?
そんな言葉が次から次へと教室内で飛び交い名前は居てもたっても居られずそっとうつ向けば、周りの反応などさして興味はないのか、幸村は凛と背筋を伸ばし教室を抜け出した。
長い長い廊下を歩いて、職員室へといき屋上への鍵を教師から借りそこを後にした。
繋いだままであった手が離されたのは、屋上へと続く階段を上りきってからだった。
ぶら下がっている南京錠に、職員室から拝借してきた鍵を差し込んでいる途中ーーほぼ無意識のうちに名前の足は一歩後退した。きゅ…と上履きの音を鳴らせば、何処に行くつもりだい、と声がかけられた。幸村の視線は南京錠に向けられたままだ。
「…何処にも行かないよ」
本心だった。本当に、名前は無意識に、足を後退させてしまったのだから。何処に行こうとか…逃げようとか、そんな考え毛頭なかった。
しかし、幸村はそう思わなかったのか、ガチャリと南京錠の重い音をたたせかと思えばゆっくりとした動作で振り返り、流れるような仕草で名前の手首を掴んだ。
「行かせないよ」
緩く首を傾げたその動作は柔らかなものだか、真っ直ぐ名前へと向けられた瞳は真剣そのものだった。
綺麗な瞳は揺れることなく名前を瞳に閉じ込め、ゆっくりとした瞬きをひとつ落としたあと掴んだ手首を強く自身の方へと引いた。
反射的に受け身を取れず、引かれるがまま幸村の胸板へと倒れ込めば、些か荒い動きで顎を掴まれ上を向かされてしまった。
また、幸村の瞳の中に閉じ込められる。
「ーー逃がさないよ」
そう呟いた幸村は、昨日と同じように軽いキスをひとつだけ落とした。
幸村の唇は、やっぱり気持ちがいいものだった。