第4章 黄色ドロップ
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「名前、屋上行こうか」
不意に名前を呼ばれ、驚いた。
午前の授業を全て終え、ノートや教科書を机にしまいこんだと同時に、幸村が傍らまでやってきて柔らかな笑みと共に名前に声を掛けてきたのだ。
声を掛けられるのは友人なので当たり前だ。驚いたのはそこではなく、名前だ。昨日までは自分の事を苗字と呼んでいたのに、何故急に名前で?
名前はポカン、と口を開け間抜けな顔を晒したまま幸村をじっと見つめた。名前の視線を真っ向から受け、視線が絡んだ事が嬉しいのか幸村は花が咲いたような笑みを浮かべると、たまには二人で…いいだろう?、なんて言葉を続けてきた。
え、でも…、と言葉を紡いでいるとスキップをしそうなほど軽やかな足取りで弁当片手に朋子が二人の側までやってきた。学校生活の中でお昼の時間が一番好きだと言っていたから、昼休みの時間になった今、嬉しくて仕方ないのだろう。
「おっ待たせー!お昼~行こう~。今日はBLTサンドをね…ってなに?なになに、なに二人で見つめ合っちゃってたの~?むふふ♡愛の告白とかでもしてたの?幸村」
「こ、告白っ…」
からかうように言い、口元に手を当て嫌な笑い方をする朋子の言葉に名前は過剰に反応してしまい顔を真っ赤に染め上げた。それだと肯定しているようなものなに。
「あ、えっと…お昼!行こう朋子!」
赤い顔を幸村に見られたくなくて、慌てて椅子から立ち上がり鞄から弁当を取り出せば、違うよね、名前、なんて少しだけ低い声が耳に滑り込んできた。
幸村の声だ。
その声音に驚き、反射的にそちらへと視線をやった名前よりも先に口を開いたのは朋子だった。
「えっ!な、名前呼び…!うっそいつの間に?むふ♡むふふふふ♡あっ!私今日は教室で食べようかな~。じゃ、お二人さん屋上行ってらっしゃい」
そう言って自分の背中をグイグイと押してくる朋子に、名前はどもりつつも緩く顔を左右にふったが、幸村の手が名前の手に触れそっと絡んできたせいで、言葉は出なくなってしまった。