第3章 白色ドロップ
目の前にいる彼女は、驚きで目を見開いたまま幸村の腕に触れる名前を、瞳を揺らして見つめたあと顔を歪めーーなにを言うでもなく自身の机に置かれたままであった鞄を引っ掴み教室を飛び出していった。
そのほんの少し後に、かたん、という音が聞こえ控えめに床を踏み鳴らす上履きの音が耳に滑り込んだ。
男子生徒が気まずさからか…はたまた、気を利かせたのかは分からないが、教室を出ていったのだ。
「……幸村、くん。さっきの聞いてた?」
窓から吹き込んでくる春風が、先程は気持ち悪く感じていたのに今は何故か少しだけ心地よく感じていた。
カーテンが風で煽られ乾いた音を立て踊る中、二人きりの教室で抱きしめられている。
心臓が、今にも破裂しそうだった。
ドキドキバクバクと煩い心臓に、まるで自分自身が心臓になったような感覚に陥りじわりと汗が浮かぶ。
「…幸村くん。さっきの、聞いてたのなら気にしないでね」
何も答えない幸村に、名前はぽつりとそう呟いた。
「どんなにいい人でも悪く言ったりする人はいるものだから。幸村くんは凄く凄くいい人だって、私が知ってる。それに、朋子だって知ってる。だから、気にしないで」
ぽんぽん、と首元に縋ったままの腕を優しくて叩けば、頬に柔らかな髪が触れ擽ってきた。幸村が名前の肩口に肩を埋めたのだ。
ふわりと柔らかな匂いが鼻腔を擽って、その匂いが幸村の服から香る柔軟剤だということが分かった。
今まで気づかなかったが、この距離の近さだと幸村の使っている柔軟剤の香りも、幸村の汗の香りも、とても近くに感じてしまってーー名前の心臓は爆発寸前だった。
ーー幸村くんはお友達お友達お友達…!!
頭の中で念仏のようにそう唱えるも、押し付けるように寄せられた幸村の胸板の感触が背中に伝わり口の中で小さく悲鳴が漏れた。音となって口から出ていなくて良かったと、心の中で安堵していると、ふと違和感を感じた。
とくん、とくん、とくん。
心地よい、しかし少しだけ早いような心音が、背中から伝わってくるのだ。
ーー私と、同じだ。
そう思った瞬間、何故だかとてつもなく嬉しくて。
名前が緩く下唇かみ下をうつ向けば、不意に幸村が口を開いた。