第3章 白色ドロップ
「…お前は、本当に馬鹿だね」
「ば、馬鹿ぁ?」
まさか馬鹿と言われるとは思っていなかったせいか、思わず声をひっくり返らせなんとも間抜けな声が出てしまった。
その声が面白かったのか、幸村はクスクスと笑いながら体を離し名前の体をゆっくりと自分の方へと向かせた。
真っ赤であろう顔を見られたくなくて、少しだけうつ向けば、その俯いた先に幸村の綺麗な顔が入り込んできてーー気づけば、キスをされていた。
ただの触れるだけの、軽い軽いキス。
それなのに、幸村の唇はとても柔らかく、気持ちがよくて…キスをされた驚きよりもずっとこうしていたい、なんて思ってしまった。
唇と唇が軽く触れるだけだったキスが終わり、至近距離で幸村と視線が絡み、戸惑いから瞳が揺れてしまう。
綺麗な瞳の中に名前を閉じ込めながら、ゆっくりと瞬きをひとつすれば長いまつ毛が動く様がやけに色っぽくてドキリと心臓が跳ねた。
「幸村く、」
名前を呼ぼうとしたが、それは叶わなかった。
幸村の舌先が、名前の唇を優しく撫でたあと、先程と同じように軽いキスをされたからだ。
親指の腹で名前の頬を優しく撫でたあと、するりと指を顎へと移動させたかと思えば、ぐっとそこに力をこめた。そのせいか、自然と口が薄く開き待ち構えていたように幸村の舌が呆けたままの彼女の口内に侵入した。
熱い幸村の舌が、名前の舌を数度撫で、絡めたあとそれはすぐに終わり目前の彼はゆっくりと顔を離した。
目の前にいる男は、友人である幸村精市である筈なのに。
自分に熱っぽい視線を送ってくる幸村が、知らない男のように見えた。
「…ごめん。俺、やっぱりーー」
眉を寄せ、切なげな表情を零す幸村は、そこで言葉を紡ぐことをやめそっと名前を抱き寄せた。
「お前の事が、好きだ」
耳元に寄せられた唇から、吐息混じりに出されたその言葉。
訳が分からず名前はだきしめられたまま、瞬きをする事さえ忘れ虚空を見つめていた。