第3章 白色ドロップ
「幸村くんは優越感に浸る為でも、自分をよく見せる為でもない…ただの一人の、お花とテニスが好きな…優しい…しかし、ちょっと小言が多い男の子なんだぞっ…それを!お前はなんなんだ!まるで、幸村くんをブランド品みたいに!!確かにっ…見た目も素敵だけど…それに負けないくらい、幸村精市という人間は素敵な人間なのだぞ…!!」
怒りに身を震わせながら、連ねる言葉はかたいものとなっている。距離を置くような、少し威圧感のある喋り方だ。
感覚が鈍くなるほど、握った拳を更に握りしめていると名前の勢いに黙り込んでいた彼女はこくりと喉をひとつ鳴らすと眉を寄せ大きく口を開いた。
「な、なによ…なにそんなに怒ってんのよ?彼氏が侮辱されたのがそんなに悔しいの?」
「……彼氏じゃない。幸村くんは彼氏じゃない。しかし、大切な友人が…横にいれば株が上がるだなんだ言われて怒らないやつが居るか!!二度と幸村くんの事を口にするな!知ったような口を叩くな!私は…私はっ…!お前なんか大嫌ーー」
ふわり、と。名前の体をなにかが優しく包み込んだ。
何が起きたのか全く分からなかった。
名前は目を大きく見開いたまま、吐き出そうしていた言葉を喉の奥に詰め込んだまま石のように固まってしまっていると、幸村くん……、なんて声がどこからが聞こえた。予習復習をしていた男子生徒の声だろう。
その男子生徒の声で、初めて自分が幸村に背後から抱きしめられたのだと理解した。
「ゆき、むら…くん?」
正面にいる彼女に顔を向けたまま、名前は掠れ上擦った声を出し自分を抱きしめているであろう彼の名を呼んだ。
「ーーお前は、汚い言葉を吐かなくていいんだよ。俺のせいで、汚い言葉を吐かなくていいんだよ」
切なげに呟かれたその声は、名前と同じように上擦っており…泣いてしまうのではないだろうか?と不安になってしまうほどか細いものだった。
幸村精市の、そんな弱々しい声音を聞くのは初めてだった。
抱きしめられているはずなのに、名前に縋るように首元に回されたその腕に軽く触れれば、ピクリと幸村の体が微かに震えたのを感じた。