第8章 ドロップス
その視線の中に、勿論幸村や、丸井のものもあった。
悲しげな丸井の視線とぶつかったが、丸井はすぐに満面の笑みを浮かべ、ぐっと拳を突き出してきた。
"頑張れ"
言葉を出さずとも、そうエールを送ってくれているのだとすぐに分かった。
そのエールに、名前は一度だけゆっくりと頷いたあと、幸村へと視線を移した。戸惑いの色を表している幸村と、視線が絡んだ。
なにやら向こうのテニスコートから帽子を被った部員が騒いでいるが、それを仁王がいつもの飄々とした様子で宥めていた。
「幸村精市くん!私は!私、はっ…貴方の事が、大好きです!私、馬鹿だからっ…凄く、凄く幸村くん傷つけて、遠回りして、悩んで…どうしていいか分からなかった。けど!皆が、私が大好きな、皆がっ…私の事、大好きでいてくれてる皆が、気づかせてくれてっ……だから!自分の気持ちに!素直になります…!!幸村精市くん!世界で一番、大好きですっ!!」
フェンスを強く強く握りしめ、そう言いきった名前に、しんと辺りは静まり返った。
その少し後に、黒い髪のパーマのかかった部員が興奮気味に、公開告白じゃん!すげー!、なんて大きな声で騒ぎ出した。その言葉を聞いて、かぁ、と頬に熱が集まった時ーー
「俺も!」
珍しく、声を張った幸村の声がして、名前は反射的にそちらへと視線を向けた。
視界の先には、夕日を背中に背負い、優しく笑いながら泣いている幸村精市がそこに居て。まるで、一枚の絵画のようだった。
「俺も…世界で一番苗字名前が大好きです!」
照れくさそうに、嬉しそうに、気恥しそうに。
そんな表情を浮かべた幸村のその言葉のすぐあとに、テニス部員たちや、下校途中の生徒達からの歓声と、拍手が湧き上がった。
その事に二人は驚き目を丸くしたが、互いに顔を見合わせ、二人は吹き出すようにして笑いだした。