第8章 ドロップス
"貴方の笑った顔が一番好き"
その言葉に、名前は嬉しさがこみ上げ、堪えていた涙が一気に溢れ出した。
その言葉は、幸村や丸井の笑顔を見た時、ひそかに言われたいとーーいつか、誰か言ってくれないかと、思っていた言葉で。
それを、自分を好いてくれた、大好きな友人から聞くことが出来て、名前は嬉しさから涙が止まらなかった。
「柳生、く…あり、がと…ありがとう…こんな、私を…好きに、なってくれて…」
気づいたら、泣きながらそう言葉を紡いでいた。
涙でぐしゃぐしゃな顔で、何度も何度も礼を言えば、柳生も同じように涙を流し、何度も礼を述べた。
「名前さん、幸せになってください。それが、私のーーいえ、私と、丸井くんと、須野さんからの、願いです。貴方の笑顔を好きな方は、他にも沢山居ます。ですから、前に進み続けてください」
そういった柳生の言葉に、名前は上手く言葉が出せず、代わりに何度も何度も頷いた。
そんな彼女を見て、苦笑を漏らした。
「名前さん、笑ってください」
「っ…う、ん!」
「そうです。その、笑顔が…私は、大好きです」
「あり、がとう…」
「名前さん。素敵な笑顔と、素敵な気持ちをありがとうございました」
「っ…柳生、くん…何度も、助けてくれて、支えてくれて、ありがとうっ…」
最後に一度だけ、強く手を握りしめた二人はそっと手を離した。涙でぐしゃぐしゃの顔でお互い笑って、自分の目指す場所へと行くため、二人は歩き出した。
柳生の微かな泣き声を、背中に感じながら、名前も声を押し殺して泣いてーー幸村の元へと、一歩一歩確実に歩を進めていく。
テニスコートへと来た。正面玄関を出た瞬間から走ってテニスコートまで来たせいで、少しだけ息が切れてしまっているが、そんな事気にもせず、名前はフェンスを両手で握りしめ、幸村を探した。
そして、すぐに見つかる大好きな人の姿。
「幸村精市くん!!」
気づいたら、叫んでいた。
テニスコートにいる部員達や、下校途中の生徒達の視線が一気に名前へと集まるが、そんな事気にならなかった。