第8章 ドロップス
「…周助、部活は?」
『あぁ、今日は休みだよ。テニスコートに不備があってね。今日は各自自主トレになったんだ』
「そっか。で?なにか用かな?」
『用、かぁ。なんだろう。…なんだか、名前に電話しなきゃ、って思ったから、かな』
「…あははっ、さすが、私のヒーローだ」
そんなやり取りをして数秒後。名前は短く息を吐いてから、ぽつりぽつりと話し始めた。
体育の時間に起きた事、保健室で起きた事、そして、丸井に振られたこと。包み隠さず、起きた事と名前の心情の全てを幼馴染の不二周助に吐き出した。
そして、最後に、自分はどうすればいいのかと問うた。
不二はその問いにすぐ答える事はしなかった。しかし、それを急かす訳でもなく名前は黙って相手の言葉を待つ。
『名前は、丸井の事を何人目の人だと思う?』
不二の言葉が、あの言葉をさしているのだすぐに分かった。
1人は真っ直ぐだけど不器用に相手を想う人。
1人は相手に惜しみない愛を与える人。
1人は相手の幸せを願い助言を与える人。
1人は相手の幸せが自分の幸せだと寄り添い支える人。
不二の言葉に、ひとつひとつ丁寧に辿るように思い出してーー不意に考える事を放棄した。
「……分からない」
『どうしてだい?』
「だって、こんな…私を、愛してくれてたなんて、ありえない」
『名前。相手の想いを否定してはダメだよ。…丸井から送られる愛を感じなかったのかい?』
「…ううん。そんなことない。凄く、凄く感じた。沢山、愛されてるな、って思った」
『ならもう一度聞くよ。名前の中で、丸井は何人目の人だい?』
不二の優しい問いに、名前はほんの僅か、黙ったあとすぐに言葉を紡いだ。
「…相手に、惜しみない愛を与える人」
『そっか。じゃあ、名前の中で幸村は何人目だい?』
「え?幸村くん?」
『そう、幸村。考えてごらん』
幸村精市との想い出を、振り返った。
立海にきて、まだほんの数ヶ月しかたっていないというのに、色濃く毎日を過ごしたと思う。その色濃くした原因はーー紛れもなく、幸村精市で。
彼との想い出を丁寧になぞり、名前は自然とまた涙を流した。