第3章 白色ドロップ
気づけば教室には名前と、目の前にいる女子と、予習復習に勤しむ真面目な男子生徒しかいなかった。
開けっ放しの窓から吹き込んでくる春風が、なぜだか酷く気持ち悪く感じるのはこの場の空気があまりいいものではないからだろうか?
浮かべていたと思っていた笑みは、いつの間にか貼り付けたものとなっていて、少し不自然さを醸し出していたが…そんなことなど気づきもしない目前の女子は楽しげに口を開いた。
「ねぇねぇ、二人は付き合ってるの?」
声を弾ませ何を言ってくるのかと思えば、思いもよらぬ質問に名前はぎょっと目を見開き驚いた。
しかし、目前にいる女子は目を輝かせ詰め寄るだけで名前の様子などお構い無しだ。
いったいなにを言ってくるかと思えば…と力が抜けてしまったが、それでも幸村の悪口よりは数倍マシだと頬を緩めたーーが、それはどうやら早合点だったようだ。
「幸村くん、顔だけはいいもんね~!うんうん、あの顔の良さだもん付き合ってるだけで自分の株が上がるっていうか自慢になるっていうか~」
「…は?」
頬を染めながらつらつらと好き勝手に話す彼女に、名前は思わず間抜けな声を上げてしまった。その声は本当に無意識に出てしまっていて、思わずしまったと顔を顰めたぐらいだ。
しかし、出てしまったものはもう仕方ない。
名前は湧き出る怒りを逃がすように短く息を吐き、そっと口を開いたが、それを遮るように彼女は言葉を続けた。
「だってさ、自分の隣歩いてるだけでなんか優越感みたいのわかない?かっこいいだろーみたいなさ!中身は兎も角見た目がいいもん
ね~」
口に手を当て、くすくすと笑う彼女。酷く癇に障る笑い方だと感じた。
ねぇ、苗字さんもそう思うでしょ?
そう問うてきた彼女に、名前は信じられないという表情をこぼし緩く顔を左右に振り、ゆっくりと口を開いた。
「思わない…全然思わないね、そんな事。貴方は幸村くんの内面を知りもしないくせして、なにをそんなに偉そうに話してるんだろうか?」
堪えていた怒りは、我慢が出来なかった。
怒りに顔を上気させ、真っ直ぐ彼女を睨みつけると、その視線を受けた彼女はびくりと体を震わせ無意識に足を一歩後退させた。