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【R18】ドロップス【幸村精市】

第8章 ドロップス



 不意に、右手にぬくもりを感じた。幸村の両手が、名前の右手を優しく包んだのだ。
 じんわりと感じる幸村の手のぬくもり。久しぶりに感じたそのぬくもり。
 幸村の手から、名前のなかに、じわじわとなにかが入ってくるきがした。あったかいその何かに、名前は戸惑いつつも、変わらず目を瞑り続けた。

「…お前は、もう平気そうだね」

 ぽつり、と幸村が言葉を零した。
 自分が起きている事に気がついているのだろうか、と名前は一瞬思ったが、そうではないらしい。
 彼は目を瞑ったままの名前を眺めながら、言葉を続ける。

「俺はね、まだ駄目なんだ。女々しい奴だな、って自分でも思う。だから、お前の事を苗字で呼んでみたり、触れたりする事を避けたりしたんだ。…でも、やっぱり、意味無かったみたいだ。倒れたお前見た時、勝手に名前呼んじゃっていたし…お前を抱き上げようとした丸井を制してまで俺がここまで連れて来たりさ、本当に、気持ち悪いよね、俺」

 そう言って呆れたような笑いを零した幸村。ぽたぽたと、数粒の水が、名前の頬に落ちた。泣いているのだろう。
 つられるようにして、名前の唇が戦慄きそうになったが、ぐっとそれを堪える。幸村の言葉は、まだ続く。

「ねぇ、どうやったら好きって気持ちを無くせるのか分かるかい?俺には…分からない。お前が、…名前が、丸井と楽しそうに笑ってるのを見ると、嫉妬してしまうんだ。そんな資格、どこにもないのにね。けど、それでもまた友達に戻れたから…気持ちに蓋をして、しまって、殺していたけど…今日、お前に触れてーーしまっていたものが、やっぱり、溢れてきて…どうしたらいいかもっと分からなくなった。…ごめん、ごめんね、名前。お前は、俺のこと友達だと思ってるのに、こんな…汚くて重い感情を、向けていて」

 ぽたぽた。また、名前の頬に数滴の水の粒が落ちた。
 それを、幸村の手が軽く拭って綺麗にする。完全には拭き取れなかったのか、苦笑が漏れた。

「名前。ーーごめん、もうこんなことしないから、もう、こんな感情出さないから、今だけはーー…」

 そう言って、唇に柔らかななにかが触れた。
 それが幸村の、唇だと、すぐに分かった。

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