第8章 ドロップス
名前の言葉にびくりと身を小さく揺らしたものの、彼女は素直に顔を上げた。ゆっくりと、ゆっくりと。上がりきった彼女の顔。背筋はいつものように凛としてなくて、申し訳なさから来ているのか猫背気味だ。
そんな宮野へと、名前は無言で両手を伸ばしていく。彼女はびくりと大きく体を揺らすと、両手で顔をガードした。殴られると思ったのだろう。
しかしそんな彼女の思考にこたえる事はせず、名前はそっと宮野の首に自分の両腕を巻き付けた。宮野に抱きついたのだ。
「え…?え?え?名前ちゃ、なにしてるの?」
「…謝るのは、私も同じ。酷いこと沢山言って、ごめんなさい。宮野さんのこと、空っぽだって言ってごめんなさい…私も、貴方に嫉妬してたみたい」
「あ、あぁ…そんな事、もう気にしてないよ。ていうか、叩いてごめんね。痛かったでしょ?」
「ううん、平気。私顔の皮厚いから」
「ぶっ!なにそれ…!そんなの聞いたことないよ、あははっ」
大きな口を開けた宮野。そこからはチャームポイントの八重歯がきらりと覗いて見えた。
二人抱き合い、笑い合う。そんな不思議な二人を見ていたクラスメイト達は首を傾げたあと各々の時間へと入っていった。
と、そんな時ーー
「宮野…?なにしてるんだい?」
耳触りのいい、大好きな声が聞こえてきた。
心臓が心地よく跳ね上がって、反射的にそちらへと視線をやれば、やっぱり幸村精市がそこに居て。
名前と宮野は体を離すと、お互い顔を見合わせ、困ったようにへらりと笑いあった。そんな二人の状況についていけず首を傾げる幸村に、仲直りをしたのだと宮野は告げた。
なるほど、と納得いったような表情を浮かべた幸村。彼の視線は、名前には向けられない。ちくりと心が痛んだが、それで終わらせる訳にはいかなかった。
「…幸村くん、あのね、話があるの」
「…………なんだい」
まさか名前から話しかけてくるとは思っていなかったのだろう、幸村は大きく目を見開きたっぷりと間を開けてから言葉を吐き出した。