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【R18】ドロップス【幸村精市】

第8章 ドロップス



 目を瞬かせ、驚きの表情を隠せずにいる名前を見ることをせず、宮野は頭を下げたその体制のまま言葉を紡ぎ始めた。

「名前ちゃん…本当に、ごめんなさい。あの日教室で言った精市くんのーーううん、幸村くんの事、顔だけなんて言ったのは…嘘。悔しかったの、私」

 ぽつりぽつりと涙声で言葉を紡ぐ宮野に、何事かとクラスメイト達の視線が集まっていたが、それでも彼女は構わず言葉を口から吐き出していく。

「名前ちゃんに教科書を見せたあの日、私が悪口を言ったでしょ?それで、その日の放課後名前ちゃんが怒って…その後ずっとぐるぐる考えてたの。あんなにむきになって名前ちゃんが言うほど、素敵な人なのかな?悪い事しちゃったな、って。それで、気持ち悪くて眠れなくて、金曜日の朝幸村くんに謝りにテニス部に行ったの。そしたら、名前ちゃんの言った通りだった。凄く、凄く素敵な人だった…すぐ、好きになった。すぐ、恋に落ちた。すとん、て。でも、名前ちゃんは幸村くんを好きで、幸村くんも名前ちゃんを好きで…私に入る隙間なんかなくて、悲しくて…悔しくて、振り向いて、欲しくてっ…邪魔ばっかり、して…本当に、本当に、ごめんなさい」
「…宮野さん…」
「けどね、幸村くん私と話しててもちょくちょく名前ちゃんの話するし、二人で話しててもたまに名前ちゃんの事見ててーーそれが、段々ムカついてきちゃって、なんで、なんで?って。私はここにいるのに、幸村くんは名前ちゃんを見てて…我慢出来なくなってっ…名前ちゃんに酷いこと沢山、しちゃった…本当に、ごめんなさいっ…」

 泣きじゃくりながら謝罪の言葉を述べる宮野のそれらが、自分が抱いていたそれとぴったりと重なって、気づけば名前の目にはじんわりと涙が浮かんでいた。
 結局は、お互いがお互いを羨んだ結果、こじれてしまったのだ。
 真っ直ぐな糸が、複雑に絡むのと一緒。だが絡まったその糸は、どちらかが歩み寄ることで簡単に解けていく。

「宮野さん、顔上げて?」

 名前は涙は流しながら、そっと宮野に声をかけた。

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