第7章 赤色ドロップ
「名前」
「なに?」
不意に真剣味を帯びた丸井の声が自分を呼ぶものだから、名前は少しだけ身を固くし彼へと視線を投げた。
視線の先には、照れ臭そうな笑みを浮かべ小首を傾げた丸井がいて、心臓が心地いい跳ね方をした。
「馬鹿な事言ったのに、その馬鹿な事に付き合ってくれてありがとうな」
「…馬鹿な事なんて思ってないよ。あのね、丸井くん。私は…丸井くんが思ってる以上に、丸井くんに救われてる。丸井くんに、ときめいてる」
頬に触れたままだったその手をそっと外させ、もう戦慄くことはなくなったその手を自身の両手で包み込んだ。
じんわりと互いの熱が伝わってくる。名前はそっと丸井の瞳へと自分を侵入させた。そして、その綺麗な瞳に自分が閉じ込められたのを確認してから、そっと顔を近づけた。
「私は…丸井くんを、愛してる」
触れるだけのキスをそっとして、すぐに離して視線を絡ませて、今度はどちらともなくキスをして。
重ねた手に僅かに力が入った頃、舌を絡める激しいキスへとなった。キスで思考が溶かされていくなか、名前はそっと顔を離し、丸井の瞳を真っ直ぐ見つめた。
言わなきゃだめだと、その時強く思ったからかもしれない。
「私はね、丸井くんのことつまらない奴なんて思った事ないし、これから先も思わない。だから…私は丸井くんを裏切らないし、捨てない事を誓うよ」
「…ふはっ、誓うって…お堅いな、お前は」
「ふふ、そうかな?…あのね、丸井くん。ひとつだけ、ワガママ言ってもいいかな?」
「おう、なんだよ」
少しだけ揺れている名前の瞳に、丸井は少しだけ不安になりつつも言葉を促した。名前の脳裏には、あの男がチラついている。
「私ね…今、幸村くんと口もきいてないし、目も合わせてないの」
幸村、という名前に丸井の体はわかり易いほど跳ね上がったが、決して声は出さなかった。
ただ名前の言葉を待ち、黙って見つめている。
「けど、それは自分でしでかした事なの。なのに、今の私はそれがどうしても嫌で、嫌で…出来ることなら、前みたいに友達として話したいの。けどこれは、私の我儘。…だから、丸井くんが嫌だと言うなら私はなにも行動を起こさない」