第7章 赤色ドロップ
「私は…丸井くんも幸村くんも好き。けど、丸井くんは彼氏として好き。幸村くんは友達として好き。…だから、その友達に、また幸村くんとなりたいの。けど、丸井くんから見たらきっとこれは気分のいい事じゃない。私が逆の立場だったらきっとモヤモヤする。…だから、丸井くんが決めてほしい」
事実と嘘を織り交ぜた汚くてずるい言葉だと、名前は思った。しかし、名前の言ったことの大半は事実で、嘘はどれだと問われれば"幸村くんは友達として好き"の部分だろう。
今現在の名前は、幸村精市の事がかわらず好きだ。
しかし、だからと言って幸村とどうこうなろうと言う気は、今の名前には毛頭なかった。
ただ、自分が壊してしまった幸村と、朋子と、自分ーー楽しかったあの時のように、戻りたいと願ったのだ。それがいい事なのか、悪い事なのか、聞く人によって答えは様々だろう。
しかし、柳生に背中を押してもらった今の名前の頭には、もう一度幸村精市と友達になりたい、という考えがあった。それ以上でも、それ以下でもない。
名前の言葉を聞き、黙っていた丸井であったが、暫しの沈黙のあと困ったような顔で笑い溜め息を吐いたあと、そっと頭を撫でてきた。
「そうしたい、やりたいって思う事があるなら、それを全力でやれよ。俺に許可を取るな。お前の人生なのに、俺がお前の行動左右してどうすんだよ。大丈夫、俺の事は気にすんな」
「っ…丸井、く…」
「あー泣くな泣くな、っとによく泣くなーお前は」
あたたかい丸井の言葉に、名前の涙は溢れ出して止まらなくなった。ぼろぼろと大粒の涙を流す名前に、丸井は苦笑を漏らしながら丁寧にそれをひとつひとつ拭っていった。
ーー丸井くん、ありがとう…ありがとう…大好き。
じんわりとあたたかい心に震えながら、は名前何度も心の中で丸井へと礼を述べた。