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【R18】ドロップス【幸村精市】

第7章 赤色ドロップ



 丸井は戦慄く両手をそっと見つめたあと、自嘲気味に笑って見せた。その笑みのまま、名前へと視線を寄越した。
 はじめて見る丸井の表情だった。悲しいような、呆れたような、悔しいような、苦しいような、それでもまだ好きだと言っているような、そんな複雑な表情。
 名前は黙って丸井の背中を撫でさすり続けた。

「なぁ、教室に誰が居たと思う?……はは、彼女が居たんだよ。しかも、野球部でイケメンって噂の奴と二人で。そんな奴と彼女が、誰も居ない教室でさ…何してたと思う?」

 声音は震え、弱いものだったが、鋭い怒りと悲しみが混じった丸井の瞳はほんの少し恐ろしいものだった。
 答えられず目を伏せた名前の代わりに、丸井は視線を外すとぽつりと呟いた。

「ヤってたんだよ」
「え…?」
「セックス、してたんだ。しかも、俺の机で。笑っちまうだろい?しかも彼女も野球部のそいつも、俺とクラス違うんだぜ?なのに、わざわざ、俺の机でさ。彼女は俺の鞄尻に敷いて野球部のそいつの名前ずっと呼んでた。愛してるってさ。俺、そんな事一度も言われた事ねーのに。あん時の光景が、頭にこびりついて今も離れない。訳わかんなくて、ただ突っ立てるだけの俺に、向こうは気づいて笑ったんだ。んで、そん時に言われた"つまんない男がこっち見てるよ"って。その言葉で野球部の奴も俺が見てた事に気づいたみてーだけど、構わずそのままヤってた。…それ以来、俺彼女作らなかったんだ。またあんな思いしたくなかったからな」

 全てを話し終えたのか、丸井は少しだけすっきりした表情をうかべるとそっと名前の頬へと手を伸ばした。
 相変わらず戦慄いた手だった。その手を自身の手を重ねる事で落ち着かせ、名前はじっと丸井の瞳を見つめた。視線が絡み、数秒の沈黙が落ちた。
 しかし、それを破ったのは丸井だった。

「…でも、そんな事忘れるくらい、俺はお前の事すっげーーーーー好きになった」
「ふはっ…すっげーが長いなー」
「そりゃあな。だって、誰にも取られたくねぇって思うくらいだし。だからお試しでもいいから付き合ってくれ、なんて馬鹿な事言ったんだぜ」

 頬をかき、唇を尖らせながら言った丸井に、名前はなんだか気恥ずかしくなりほんのりと頬を赤らめた。

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