第7章 赤色ドロップ
絡んだ視線をそのままに、丸井は目尻を垂らして僅かに微笑んだ。困ったような、悲しそうな笑い方だった。
「俺、つまらねぇ奴なんだってさ」
「え?」
ぽつりと落とされた言葉に、名前はほぼ無意識で声を出してしまっていた。
その名前の戸惑いの声にこたえるように、丸井は視線を外してからゆっくりと話し始めた。
「それを教えてくれたのは、中一ん時付き合ってた彼女でさ。初めて会った時は別になんとも思わなかったけど、会う度会う度美味いもんくれてさ、それでよく話すようになったんだ。部活をよく見に来てて、終わったら差し入れくれて…帰り道、部活であった話とか、クラスであった話とかを俺が話すとそいつ涙浮かべて笑うんだ。そん時、あー俺こいつの事すっげー好きだな、って思ったんだ」
僅かに震え始めた相手の声に、名前は困ったように眉を寄せ、そっと丸井の背中を撫でさすった。
大丈夫?と視線で訴えれば、おー、なんて緩い返事のあと、丸井は再度口を開いた。
「でさ、それに気付いてから一週間後ぐらいに告白したんだ。もーだめだ、好きすぎて言わなきゃ苦しいって感じで。んで、そしたら向こうも俺の事好きって言ってくれて、付き合い始めたんだ。それから俺、前にも増してすんげー毎日楽しくてさ。部活やってる時もそいつの姿見たらかっこいい所見せなきゃ、とか思ったりして。…けど、1ヶ月ぐらい経った頃…なんとなく違和感感じたんだ。メールの返事が来ない、部活を見に来なくなった、下校も一緒にしなくなった、そんで…話してても笑わなくなった。俺訳わかんなくて、ジャッカルに相談したんだ。そしたらとりあえず話し合えって言われてさ、確かになって思って自分の教室戻ったんだ。そん時は放課後で、しかもテスト一週間前だったから部活もなくて。教室に居る奴なんて誰も居ないと思ってた。だから自分の荷物取ってきてとっとと帰って彼女に電話しよう、って。駄目なら明日直接話そうってぐるぐる考えてた。けど、教室には人が居た」
その時の事を思い出したのか、丸井は今にも泣きそうな声音で、僅かに身を震わせていた。
丸井ブン太の、触れてはいけない所に触れてしまったのかもしれない。
名前は頭の中でそう理解し、ごめん、もういいよ…、と言葉を投げたがそれでも丸井は言葉を続けた。