第7章 赤色ドロップ
それから二人は数分間、夜空を堪能しながら他愛もない話に花を咲かせた。
丸井の話に腹を抱え笑っていた名前は、ふとあることが頭に過ぎった。名前は丸井へとやっていた視線を空へとやってから、そっと口を開いた。
「ねぇ、丸井くん」
「ん?なんだ?」
丸井の視線が横頬をさしたのが分かったが、名前はそれでも視線をそちらへと向けなかった。
「……丸井くん、私のこと心の底から好きだって言ったの、本当…?」
丸井と付き合ったその日。丸井は柳生に"久しぶりに心の底から好きになった"と言っていたのを思い出しながら、そう言葉を紡いだ。
名前のその言葉に、丸井はギョッと顔を破顔させるとほんのりと頬を赤く染め唇を尖らせた。
「はぁ?急に何言ってんだよ小っ恥ずかしい…」
「真剣に、聞いてるの!」
「……あぁ、そうだよ。本当だよ。……誰かを好きになるなんて、もうねぇかな、なんて思ってたけど…お前がその考え壊してくれた」
名前はそこでやっと丸井へと視線を流した。
気恥しそうに視線を伏せながら、丸井は更に言葉を続けた。
「…俺さ、昔から割りとモテたんだよ」
「おっと自慢が始まったか?」
「茶化すなよ、聞けって」
「ごめんごめん、で?」
「んー。でさ、小学校高学年の時とかは付き合うつっても、一緒に登下校したりした時に手繋ぐぐらいでさ、付き合うっていう事ってそんくらいのもんだと思ってたんだよ」
丸井はそこで言葉を一度きって、伏せていた目を空へと向けた。相変わらず様々な光り方をしている星々を見て、すげー、なんて言葉を漏らしたあと、丸井は先程の話の続きをする。
「でもな、付き合う子達のことはちゃんと俺好きだった。どうやったら笑ってくれるか、とか。なにをしたら喜ぶか、とか。色々俺なりに考えてやったりしてたんだよ。でも、気づいたら皆俺の隣から居なくなっちまうんだ。それがなんでかよく分かんなかった。けど、中一ん時、それがなんでか教えてもらったんだ」
そこで言葉を切って、不意に名前へと視線を寄越してきた。
丸井の横顔を眺めながら真剣に話を聞いていた名前は突然自分へと向いた視線に戸惑いつつも言葉の続きを黙って待つことにした。