第7章 赤色ドロップ
びくり、と反射的に体が跳ね上がった。それはきっと怪談話が脳裏にちらついていたからだろう。名前はこくりと喉を鳴らし、向かいのドアを凝視した。
ーー幽霊じゃない幽霊じゃない幽霊じゃない…!!
一人心の中でぶつぶつと呟くあいだ、名前の頬にはたらりと冷や汗が流れた。こくり、また喉がなった。
と、そんな時ーー
「んあ?なにしてんだ?名前」
開かれたドアからひょっこりとあらわれた彼氏ーー丸井ブン太に名前の体の力は一気に抜けそうになった…が、それをなんとか食い止め溜め息を吐き出す事で切りぬけた。
微かに震える膝にむち打ち、名前は唇を尖らせ丸井へとジト目を向けた。
「なにしてんだじゃないよ丸井くん!こんな時間になにしてるの?びっくりしたんだから」
「そりゃこっちの台詞でもあるっつーの。お前こそなにしてんだよ?寝れねぇのか?」
「あー…うん、そう。なんか、眠れないの…変な感じ」
「ん、なら俺と同じだ。なぁ、外の空気吸いに行かねぇ?」
丸井の誘いに名前は大きく首を縦にふった。それもそうだろう。名前ははじめからそのつもりで部屋を出たのだから。
二人は物音をたてぬよう、抜き足差し足忍び足…と言った感じで廊下を歩きログハウスのドアまでたどり着くとそっとそれを開いた。
外へと出て空を見上げれば、真っ黒に青を少し混ぜ合わせたような空に様々は光をする星が散りばめられていた。どれも誇らしげに夜空のキャンパスで光っているが、その光は弱かったり、強かったり、儚かったりーー様々だ。
まるで人間みたいだな、なんて思いつつ夜空を見上げていた名前の耳に自分を呼ぶ丸井の声が耳に滑り込んできた。
視線をそちらへと向けると、木製の長椅子が置いてあり、そこに丸井は腰掛けて名前へと手招きしていた。
「すごいね、なんかプラネタリウム見てるみたい」
声を弾ませながら言い、そっと丸井の隣へと腰を下ろした。
「プラネタリウムよりいいもんだろい。すっげー綺麗だし。俺こんな綺麗な夜空はじめて見たかも」
「私も!…ていうか、夜空をこんなまじまじ見るの初めてかも」
そうぽつりと呟いた名前の言葉に、確かにな!、なんて笑いながら丸井は同調した。