第7章 赤色ドロップ
柳生の言葉が、じわじわと名前の心に染み込んでいった。まるでよく乾いた布が、待ってましたとばかりに水を吸い込むように、じわじわと、じわじわと…柳生の言葉が心に染み込み、やがて、脳にまで伝達された。
気づけば空は唸り声をやめ、雨はやみ、空は先程の荒れ具合が嘘のように晴れ渡っていた。
「…晴れたね、柳生くん」
「ええ、本当ですね。気持ちいい夕焼けです」
オレンジ色に染まる空に、大きな大きな虹がかかっていた。それを二人は指先でなぞって…不意に二人は吹き出して笑った。
声をあげて笑う二人の耳に、ふと丸井と須野の声が聞こえ鼓膜を震わせた。
行きましょうか、と柳生の声。それと同時に離れた体。寒さなんてもう微塵も感じなかった。
「柳生くん、ありがとう」
「いえ、私はなにもしていませんよ」
二人はまた吹き出して笑った後、丸井も須野の声がする方へと歩いて行けば、焦ったような二人がすぐに視界に飛び込んできた。
歩み寄ってきた名前と柳生に、二人は目を大きく見開いたあと、すぐに安堵の表情を浮かべた。至極安堵したような様子の丸井が名前を抱きしめようと腕を広げれば、泣きじゃくった須野が丸井を体で突き飛ばし勢いよく名前へと抱きついた。
突き飛ばされた丸井は川へとダイブしそうになったが、すんでのところで止まり、ばくばくと煩いであろう心臓を抑えながら須野をジト目で睨みつけた。
しかし、安堵したように抱き合う名前と須野を見て、溜め息を吐いた丸井はそっと柳生へと視線をやった。
「来るの遅くなって悪い。大丈夫だったか?怪我とかねぇか?」
「ええ、こちらは大丈夫ですよ。そちらの方も大丈夫でしたか?」
「いや…須野の奴がパニック起こしちまって、早く二人の所に行かなきゃって飛び出しちまって…そんですぐ転ぶし雷鳴るし泣くしで…。俺も少しパニクってたけどよぉ、自分よりパニックになってるやつみると冷静になるんだな…。とりあえず須野とログハウス戻って雨が弱まった頃こっち来たんだ」
「そうだったのですか…それは大変でしたね」
疲れた様子で肩を落とす丸井に、苦笑を漏らしつつも労りの言葉を投げた柳生。