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【R18】ドロップス【幸村精市】

第7章 赤色ドロップ



 願わくは、また幸村と、朋子と、自分の三人で話したい。そんな考えが浮かんでは、それを出来なくしてしまったのは自分だともう一人の自分が嘲笑う。
 幸村が、宮野が名前へ嫌がらせをしていた時ーー影でそれを必死に食い止めようとしていた幸村を知って、名前は死ぬほど嬉しかった。
 それと同時に、

   幸 村 精 市 が 大 好 き

 なのだと、名前の心は痛いほど叫んだ。しかしそれを再確認するには、もう遅かった。名前には、丸井がいる。名前の事を全身全霊で愛してくれて、悲しい時に救ってくれた丸井を裏切れる訳が無かった。
 だからこそ、自分へと想いを寄せ続ける幸村を残酷にも切り離したというのに。
 別荘に来る前、待ち合わせ場所で丸井や柳生と話す幸村と目が合った時、それだけで舞い上がるほど嬉しかった。しかし、視線を外され何事も無かったかのように行ってしまった幸村に、心臓が悲鳴を上げるほど痛かった。

 とどのつまり、

「柳生くん、私ね、凄く馬鹿なんだよね」
「え…馬鹿、ですか?」
「うん、馬鹿。私の幼馴染にも昔からよく言われてた。頭弱いって。私、考え事や悩み事が嫌でさ、昔からそういう場面に出くわしたら笑って誤魔化してたの。そしたら大抵の悩みとかなんて吹っ飛んじゃうからさ」
「…そうですか」
「うん。でもね?ダメなんだ、最近。笑っても全然誤魔化せなくて、頭の中のどこかに必ずあの人がいて、その人が笑ったりするとこ浮かべたら私も嬉しいし、悲しい顔浮かべたら私も悲しい。頭の中のその人でも、一喜一憂するくらいなのにね、私は現実のその人を何度も何度も傷付けてるの。今回の話せなくなったし目も合わせなくなったのもそう。けど、それは私が最初にした事で、向こうも理解してそれをしたんだと思う。けどね?けどっ…その人の中で、私が空気みたいな存在になっていくんだって思ったら…悲しくて、辛くて、心臓、死んじゃうんじゃないかってくらい…痛くてっ、しんどくっ…どうしたらいいか、わかんなくて…」
「……」

 名前は気づけば泣いていた。降り注ぐ雨にも負けないくらいの大粒の涙を、ぼろぼろと目から零しながら、必死に言葉を紡いでいく。
 そんな名前を、柳生はただ黙って聞きながら頭をそっと撫でつけている。

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