第7章 赤色ドロップ
そんな柳生に、ありがとう、と礼を述べた名前は空を見上げた。まだ空は唸り声をあげ、いつ叫び出すかわからない状態であったが、決定的な叫びが来ない分まだマシだった。
雨足は先程よりは幾分良い気がするが、それでもまだ強く、とてもではないが傘なしで歩きログハウスまで向かうなんてことは思わなかった。
寧ろ、傘をさしたところであまり意味はないようなきがした。それほどまでに、強い雨だ。
ぽたぽたと髪や肌から滴る水をそのままに、二人は肌を重ねたまま数分間無言のままでいた。次第に互いの体温でじんわりと肌があたたまってきた頃、不意に名前は口を開いた。
「柳生くん、変なこと聞いてもいい?」
「変なこと、ですか?…別に構いませんが」
柳生の返事を聞き、名前はまた口を開こうとしたが、少しだけ唸り声を大きくした空にびくりと体が震え言葉が引っ込んでしまった。
しかし、柳生の体温に包まれているせいか、不思議とそこまで怖くはなかった。
「柳生くんはさ、仲の良かった人と喧嘩した時ってどうする?」
「喧嘩ですか…例えばどのような?」
「うーん…口きかなくなったり、目も合わせないような…結構酷い喧嘩だった場合」
「ふむ。それはなかなか深刻なものですね」
柳生は敢えて一度口をとじ考える仕草を見せた。唸り声をあげていた空は今は静かだが、先程は少し弱まった雨がまた強くなってしまっている。
「軽い喧嘩だった場合は大抵相手の出方を見つつ、自分が悪い場合はすぐに謝ったりしますが…そこまで酷いと…そうですねぇ。苗字さんはどうしたいのですか?」
「え?私?」
まさか質問返しをされるとは思っておらず、名前は目を丸くして驚き、思わず柳生の方へと視線を向けた。
近すぎる距離慌てて視線を元に戻し、ほんの少しの間を空けてから口を開いた。
「私は………また、話したい」
「話したいと言うのは、挨拶を交わす程度ですか?それとも、友人のように?」
「…分かんない。挨拶程度でいいのか、前みたいに友達として話したいのか、それともーー」
また、熱っぽい視線を感じながら、好きだと愛を囁いてほしいのか。
話したい。けど、話せない。そうしたのは自分なのに、やっぱり嫌だと自己中心的な考えの自分がいて、嫌になる。