第7章 赤色ドロップ
「苗字さん、あそこで雨宿りをーー」
言葉を紡いでいた柳生の口が、そこでふと止まった。腕の中で震える名前は、耳を強く塞いでいて音を遮断していたからだ。彼女の口から微かに漏れる言葉。丸井の名前を何度も何度も呼んでいる。
そんな名前を見た柳生は、きゅっと口をゆるく結び彼女の体を持ち上げた。
「や、柳生くん…?」
体が持ち上がり、何故か柳生に横抱きされている。そんな不思議な状況に、雷の事も重なり上手く頭が働かず名前はただ震える声で相手の名前を呼んだ。
「大丈夫です。貴方は私が、守ります。…でないと、丸井くんに顔向け出来ませんからね」
そう言って苦笑した柳生を、名前はじっと見つめていた。雷と雨の音で、きっとよく聞こえなかった筈だ。
柳生はその事を理解した上で、同じ言葉を紡ぐことはせず名前を横抱きの体制のまま目的地である大きな木の下まで走った。
雨と、小石と、視界の悪さが柳生を拒んだが、それでも一度も足の速度を緩めること無く走り、なんとか木の下までたどり着くことが出来た。
完全に雨は防げてはいないものの、それでもなにもない所であの大粒の雨を一身に受けるよりは充分すぎるほどマシだ。
相変わらず震えている名前をそっと地面に下ろせば、震える唇で、ありがとう、と柳生へ礼を述べた。
「…早く止めばいいのですが……お体は大丈夫ですか?」
名前の隣に腰を下ろした柳生が、そっとそう問うてきた。視線を一度彼女へと投げたものの、頬を赤くしてすぐ逸らしてしまった。水着のせいだろう。
「体は大丈夫…って言いたいんだけど、少し寒い、かな」
名前はそっと両手で体を抱えるようにして震えている。雷と寒さのせいだろう。先程まで川で遊んでいた上に、雨に全身濡らされてしまったのだ、無理もない。
寒さのせいで歯と歯がぶつかりかちかちと音をたてる中、柳生はたっぷりと時間をかけた後、そっと名前を抱き寄せた。背後から柳生に抱きしめられ、突然の事に名前の思考能力はついていかない。
「や、柳生くん…?あの、なにして…」
戸惑いながらそう声を掛ければ、暖を取るためだと柳生は小さな声で言った。声と体が震えている。柳生自身も寒いのだろう。