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【R18】ドロップス【幸村精市】

第3章 白色ドロップ



 腹の底から湧き上がる怒りに、名前は目眩を覚えるほどだった。
 ぐるぐると螺旋を描くようにして疼いていた怒りは、腹の底からじわじわと体全体を蝕み、それが頭の先から足のつま先まで巡り終えた頃には名前の頭の中は怒りと悲しみでいっぱいになっていた。
 相手の事をよく知りもしない人間が、上辺だけ見て批判して、挙げ句の果てには見るだけならいい?ふざけるな、と名前はスカートを強く握りしめた。
 そうしないと、口から怒声が飛び出してしまいそうだったからだ。
 スカートをきつく握りしめているせいで、手は鈍い痛みを産み出し、色は赤を通り越し白くなってしまっていた。
 のんびりとした口調の教師が、教卓の前にたつや否や世間話をはじめた。その世間話が、名前にはなにかの呪文のように聞こえ目眩が少し増してしまった。

 結局、教科書を見せてもらったはいいものの、怒りにより全くそれを見ることが出来ないままいつの間にか授業は終わっていた。


 * * *

 帰りのSHRが終わった。
 教師が教室を出ていったのを見計らい、怠惰な動きで机に突っ伏すもの、部活に行くため早々に席を立つもの、授業の予習復習にうちこみはじめるもの様々だ。
 あの後、名前は授業が終わった途端、ありがとうという言葉を述べすぐに席をはなし休み時間の間はトイレに篭っていた。隣にいる彼女を少しでも見てしまえば、腹に溜まったままの怒りを吐き出してしまいそうだったからだ。
 あれから数時間時が流れたが、未だ苛立ちは腹にどっしりと居座ったままだ。
 しかし、時間が経過したせいか隣の彼女を見てもその怒りを吐き出す気にはもうなれなかった。怒りもあるが、今は何故か酷く悲しい気持ちでいっぱいだったのだ。
 幸村精市という人間は、知れば知るほど人間らしい人なのだ。
 確かに名前もその見目麗しさに引け目のようなものを感じていたが、幸村という人間と接していくうちに彼の内面に触れその人間らしさに安堵した。
 花が好きで、花のことを話す時は自然と頬が緩んでいるし、テニスの話をする時は真剣だ、小言を言う時は眉を寄せどこか母親のような雰囲気を醸し出す。

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