第7章 赤色ドロップ
「柳生さん、貴方…むっつりですの」
頬を赤らめる柳生に、ジト目を向けた須野。己を身を守るようにして体の前で手をクロスさせているのは多分、無意識の行動だろう。
彼女の反応を見て、柳生はわかり易く顔を破顔させると、勢いよく立ち上がった。
「ち、違います!今のは丸井くんが急に話をふるからであって私は別に…!」
「んだよ柳生、水着興味ねぇのか?お前それでも本当に男か?」
「丸井くんは少し黙っていてください!」
茶化すように言ってきた丸井に、柳生は珍しくぴしゃりと厳しい物言いをしてから再度ソファへと腰を下ろした。
柳生くんにもこんなに取り乱す時があるんだ、などと目を丸くしていた名前であったが、ふとある事を思い出し徐に立ち上がった。
何を言うでもなく突然立ち上がった名前に、三人の視線が彼女へと注がれる。その視線に気づき、苦笑を漏らしつ名前は自身の大きな鞄へと歩を進め、その中からある物をそっと取り出した。
それを見た瞬間、丸井の目が見開かれ、きらきらと輝いた。
「パウンドケーキじゃん!食おうぜ食おうぜ!」
そんな丸井の弾んだ声に、名前の頬が自然と緩んだ。
名前が鞄から出したのはパウンドケーキだった。ナッツ入りのそれは今朝名前が皆と食べようと手作りしたものだ。
調理部に入ってからというもの、丸井が喜ぶからとお菓子を作るのが癖になり今日もこうして作ってきたのだ。
とは言え、お菓子作りは丸井の方が格段に上手いのだが、それでも丸井が自分の作ったものを食べて美味い美味いと満面の笑みをうかべるものだからついつい作ってしまう。
「丸井くんと柳生くん、部活の後でお腹空いたでしょ?これ皆で食べよ。で、食べながら川に行くかどうか考えよう」
そう言った名前に、名案だ!とばかりに丸井は大きく首を縦に振り満面の笑みを浮かべている。
そんな丸井の様子に、すっかり毒気を抜かれてしまった柳生は、苦笑を漏らしつつも名前に礼を述べた。となりの須野に至っては丸井以上に目を輝かせ今にも飛びつきそうなのをぐっと堪え、飲み物の準備をし始めた。