第7章 赤色ドロップ
そんな丸井に、名前は喜びを感じると同時に、罪悪感を覚える。
幸村くん、指治ったかな?
まだ疲れてる顔してるけど眠れてるのかな?
なんだか少し痩せたように感じるけどご飯食べれてるのかな?
そんな事を、無意識のうちに、それも先程のようにふとした瞬間に幸村を思い出してはぐるぐると考えるものだから、始末に負えない。
名前は丸井の事が好きだ。付き合う前はそれこそ無かった感情を、今の名前にはある。それは、名前も自覚してきていた。
丸井が近くに居ると、心地よいのと同時にドキドキするようになった。見つめられると恥ずかしくて視線から逃れたくなった。触れられると、心臓が口から出てしまうのではないかと言うほどドキドキした。
不意に手を繋いできた今だってそうだ。見つめられ、手を握られ、気恥ずかしくて嬉しいと言葉を投げられ、心臓は早鐘を打っているのにもっと触れてほしいと思う。
だからこそ、名前は自分がアバズレ女のような気がしてならなかった。
気持ちを断ち切ろうとして幸村に酷い言葉と態度を投げつけたのに、結局断ち切れず…今現在の相手からの態度に傷つくこともある。幸村はただ、名前が望んだ事をしただけ。
それ以上でも、それ以下でもないのに。
言葉を交わさず、視線も合わさず。お互いがお互いを空気のような存在だと無理矢理あてはめて。周りからしたら何かあったんだな、とすぐに分かってしまう。それでも周りはそれについて詮索などしなかった。
ただ単に、喧嘩して仲がこじれたという単純な事ではないと、二人の表情を見ればそれが痛いほどに分かったからだ。二人は、見えないところで周りに助けられているのを、二人は知らない。
「丸井くん」
「ん?なんだよ」
名前はそっと丸井を呼んだ。呼びかけに首を緩く傾けた丸井。絡んでいた視線に、甘さが混じった気がする。
「大好きだよ」
「ふはっ…おう、俺も」
照れ臭くてあまり言わない台詞を、その時何故だか無性に言いたくて。笑みを添えてそう言えば、丸井は頬を赤らめ至極嬉しそうに笑った。
不意に、咳払いがきこえた。
「お二人共、私達が居ることをお忘れなく」
柳生の厳しい声に、丸井と名前は頬を真っ赤に染め上げ、身を縮こまらせ、謝罪の言葉を述べた。