第7章 赤色ドロップ
「名前」
不意に名前を呼ばれた。三種三様の声が、自分を呼んだ事にはっと我に変えると三人が名前の事を見つめていた。
名前を見つめる三人の目の色の感情は、それぞれ違っていた。
「行こっか!」
自然と浮かんだ満面の笑み。三人もつられて笑みを浮かべた。
言葉では言い表せない、不思議な感情が名前の心に込み上げてきて、ゾワゾワと気持ちの良い刺激を送り込んできた。
送り込まれたそれは心臓からあっという間に溢れ出して、体の中をぐるぐると巡った。
ーー私、皆のおかげで此処に笑顔で居られるんだ。
名前は笑みを浮かべながらひっそりと心の中でそう感じていた。
須野の父親の車は、中学生である名前達が見ても、高くていい車なのだという事がよく分かった。
太陽の光が反射し、目にちかちかと刺激を送ってくる黒塗りのそれに四人は乗り込んだ。運転席に座る須野の父親に、よろしくお願いします、と名前、丸井、柳生が頭を下げれば何故か涙を流していた。
「真凛…良かったな…良かったな…お友達沢山出来たなっ」
どうやら須野の感動屋な一面は父親に似たらしい。目から大粒の涙を流し喜びに打ち震えている相手を見てそれが痛いほどによくわかった。
そんな父親に、須野は得意気な顔をし胸をはってから口を開いた。
「お父様、ただの友達ではないんですの…名前は、私の親友なんですの!」
「し、親友…!?…君が、名前ちゃんかい?」
須野の言葉に目を見開いた父親は、後部座席に座り二人の話を聞いていた名前へと勢いよく視線を投げてきた。
「は、はい!初めまして、苗字名前と言います。今日は宜しくお願いします」
突然投げられた視線と言葉に、びくりと体を震わせてしまった名前であったが、ほぼ反射的に口からは挨拶の言葉がするすると零れていた。
頭を下げ少しだけ困った笑みを浮かべる名前を見て、須野の父親は更に感動したのか、それから数分泣きじゃくった後何事も無かったかのように車は別荘へと動き出した。