第7章 赤色ドロップ
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それから時間は当たり前に過ぎていき、あっという間に須野の別荘へと行く日となった。
放課後の教室で起きた幸村との一件以来、二人はまともに会話をする事はなかった。以前はそれでも挨拶程度は交わしていたのだが、今となってはそれさえもない。
それは、幸村への想いを完全に断ち切るための行為と同時に、幸村への牽制でもあった。
"もう貴方との恋は終わり"
そう、名前なりの遠まわしな断りだった。
しかしそれは、幸村にはしっかりと届いていたらしくそれ以来一言も口を聞いていない。しかし、ふとした時に感じるのはやはり幸村からの視線で。
反射的に振り向きそうになるのをぐっと堪えて、名前は素知らぬ顔して過ごすのだ。しかし名前自身もまた、ふとした時に幸村の背中を眺めていて。気づいては慌てて視線を別の場所へと移すーーそんな日々を過ごしていた。
「絶好の別荘日和ですの!」
初夏の太陽が照りつけ、肌をじりじりと刺激してくる中、青い空と綿菓子のような雲を仰ぎみた須野真凛は満面の笑みでそう呟いた。
大きく両手を広げ、くるりと一回転して見せた須野はどこからどう見ても上機嫌の様子が見てとれる。
そんな須野につられ、名前も満面の笑みを浮かべ、そうだね、と相槌をうった。
名前と須野は、今現在立海から近くの喫茶店に来ていた。時刻は午前10時。二人は心を弾ませながら喫茶店内へと足を踏み入れれば、お昼前のせいか店内はがらんとしていた。
すぐにやってきた店員に二名であることをつたえると、お好きな席にと言われ、そのままさっていった。近くの四人がけのテーブル席に腰を下ろすと、先程の店員がトレーに水を乗せやってきた。
目の前に水を置き、注文が決まりましたらそちらのボタンを押してください、と告げた店員は足早に厨房へと引っ込んでいった。
「二時間ぐらいでしたら、ここで時間潰すのも問題ありませんですの。さぁ、名前さん、私とたっぷりお話をするんですの」
須野は目を輝かせながらそう言うと、身を乗り出して名前の顔を覗き込んだ。