第7章 赤色ドロップ
「それでも、宮野は納得出来なかったらしくて…名前にあんな事をしたみたいなんだ。だからノートを隠した時もう一度きつく言ったんだけど…ごめん、逆効果だったみたいだ。まさかわかりやすく机にあんな事するなんて思ってもいなかった」
ひとつひとつ記憶を辿るようにして話す幸村に、名前は、謝らないで、と小さな声で呟いた。
幸村の言葉は消え入りそうだったが、それでも懸命に言葉を紡ぐ事をやめない。
「けどね、宮野に言われたんだ。"気持ち悪い"って。"影でこそこそ相手に気付かれないようにそんな事してストーカーみたい"って。いいのは顔だけ、中身は空っぽだし行動は気持ち悪い最悪な奴って、さ…。で、叩かれた…あんたとは終わり、ってさ」
「幸村くん…」
「俺、それ聞いてたら、ははっ…笑えてきちゃって。的を得てるな、って…。ごめんね、本当はこうやってお前を抱きしめてる事だって、お前からしたら気持ち悪いだろう?」
「っ…そんな事ない!全然、そんな事ないよ、幸村くん!幸村くんは空っぽなんかじゃない!!私は幸村くんのいい所いっぱい知ってる!!」
そう強く言葉を吐き、背中に手を回し、強く抱きしめた。
腕の中に包まれているのは自分の筈なのに、何故か幸村が自分に縋り付いてくる子供のように思えたからだ。
「…本当に?俺、ただのお人形さんじゃない?」
その言葉を聞いて、名前は宮野の顔がすぐに浮かんだ。自分をよく見せたいが為に幸村と付き合っておいて、自分の思うような言動をしなかったから。自分の気に食わない言動をしたからと。幸村が傷つく言葉を散々吐き捨てた挙げ句、暴力まで振るった。
腸が煮えくり返る思いだった。それが、如実に表情に出ていたのだろう。幸村はそっと耳元から顔を離し、名前の顔をそっと覗き込みほんの少しだけ表情を和らげた。
「怒ってるのかい?」
「うん」
「俺の為に?」
「…うん」
「…ごめん。凄い性格悪いこと言うけど……凄く、嬉しい。名前が、俺の事を少しでも思ってくれてるってわかって、凄く…嬉しい」
ぽつりぽつりと紡いだ言葉。それはやはり震えていて。けど表情は柔らかくて。
優しく背中を撫でさすれば、そっと幸村の綺麗な顔が近づいてきた。