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【R18】ドロップス【幸村精市】

第7章 赤色ドロップ



 何かを考えるように額に手をやり黙り込んだ幸村だったが、観念したようにそっと手を退かすと伏し目がちにゆっくりと話し始めた。

「…何処から何処まで聞いたんだい?」
「ノートと、教科書と、机…かな」
「…全部じゃないか。まったく…愛卯」
「朋子は悪くないよ。私が教えてって言ったんだから」

 咄嗟に口から嘘が出た。つかなくてもいい嘘なのに、と口にした途端後悔した名前であったが、言ってしまったものはもう取り消せない。
 ただじっと、相手の言葉を待つのみだ。

「…ごめん。気持ち悪いだろ、影でこんな事こそこそしてさ」
「そんな事ない!私っ…!ごめんね、ごめんねっ…私、馬鹿だから、気づかなくて…手、痛かったでしょ?机も、あんな酷いの使わせて…ノートもありがとう…本当に、本当にありがとう…。幸村くんの優しさが、嬉しかった…」

 気づけば引っ込んでいた涙がまた溢れていて。
 名前は泣きじゃくりながら、謝罪と感謝の言葉を述べた。気持ちがいっぱいっぱいで、気を許したら、好きだと、そんな言葉が口をついて出てしまいそうだった。

「………本当、に?」

 縋るような幸村の震えた声が、耳に滑り込んできた。言葉をはっそうにもしゃくりあげてしまい声が出ず、涙を拭いながら、返事の代わりにゆっくりと一度だけ頷いた。
 ふわりと、花の香りがしたきがした。下がっていた顔を反射的にあげれば、そこには涙を流している幸村がいて。

 ーー泣いてる姿も、本当に綺麗。

 そう思い、見惚れた瞬間、心臓が痛いくらいに締め付けられた。苦しいくらいのその締め付けに、息をする事さえ忘れかけた瞬間、そっと幸村の腕の中に閉じ込められた。
 丸井の腕の中とは違う、幸村の腕の中。久しぶりに味わった幸村のそのぬくもりと感触に、名前の思考はじわじわと溶けていく感覚に陥った。
 耳元に寄った幸村の唇から、微かに漏れる泣く声と吐息に、言葉が喉の奥に引っかかって出てこなかった。

「…宮野にね、何度も言ったんだ。名前は悪くない、俺が勝手に好きなだけだから名前に逆恨みするのは止めろって…」

 微かに鼻を啜る音と、丁寧に言葉を紡ぐ優しく震えた声が、名前の鼓膜を優しく刺激してくる。

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