第7章 赤色ドロップ
時間は流れ、放課後になった。あれから朋子はしばらく泣きじゃくったままだったが、時間が経つにつれいつもの彼女へと戻り昼休みが終わり教室に入る頃には、困らせてごめん、と眉を八の字にして謝ってきた。
そんな朋子に、名前も同じようにして眉を八の字にして、こっちこそごめん、と謝罪の言葉を述べた。
その"ごめん"は、あの時上手く言葉を紡げなかったことへの謝罪なのか、それとも朋子の願いを聞き入れることは出来ないからという罪悪感から来たものなのか。名前は自分自身でも、分からなかった。
その時の事を思い出し、名前は自然と涙腺が緩んだが、慌てて頭を左右に振りぐっと堪えた。
放課後の、誰も居なくなった教室で名前は一人幸村の席の前に突っ立ていた。幸村が今日一日使ったそれは、自分が立海に来てからずっと使っていたもので。
自分が使っていた机だという印でもある削られたような跡を、指の腹でなぞりながら、じっと机を眺めた。
"死ね"、"ブス"、"学校来るな"、"泥棒"。
そんな汚い言葉が、大きい字だったり小さい字だったりして書かれている。
ーーこんな汚い、酷い机を、幸村くんは一日使ってたんだ。
そう思うと同時に、罪悪感が顔を出しーー同時に、何故だか心があったかくなった。幸村に、愛されていると、感じることが出来たから。
気づけば涙が勝手に流れていて、名前はそれを拭うこともせずただ机を眺めていた。
自分のせいで疲れた顔をしていた幸村。自分のせいで指を怪我していた幸村。自分の為にこっそりと気づかれぬように嫌がらせを止めていた幸村。
本来ならば、お礼と謝罪を述べなければいけないのに。今の名前は幸村からの無言の愛に、ただただ嬉しくて涙を流すばかりだった。
ーー明日、幸村くんにちゃんとお礼言わなきゃ…あと、謝罪も…。
鼻を啜りながらも、自分の机を元に戻そうと手に掛けた時だったーー不意に、教室のドアが控えめに開いた。
急な物音に驚き、ぐしゃぐしゃな泣き顔のまま反射的にそちらへと顔を向ければーー幸村精市がそこに居た。